【関西の教育最前線(6)】府立高のグローバル系学科 倍率なぜ下がる? 国際化の時代なのに…

藤山正彦(開成教育グループ)入試情報室長
藤山正彦(開成教育グループ)入試情報室長

 日本の企業は生産年齢人口がピークアウトした30年ほど前から、自動車やエレクトロニクス系メーカーが生産拠点や市場を海外に移すなどグローバル化に舵を切っています。それに伴い、社内公用語を英語にする、入社や昇進の条件にTOEICなどのスコアを要求する企業も増えてきました。近年はGAFAなどのIT系企業の台頭で、日本のグローバル化も加速しており、こうした社会環境で戦える人材の育成はますます重要になるといえるでしょう。

 一方で2020年からのコロナ禍は、人や文化の交流に急ブレーキをかけました。教育の分野も例外ではありません。海外渡航を伴う学校行事の延期や縮小、特に語学研修や修学旅行の中止など厳しい状況が続きました。

 こうした中で、公立高校のグローバル系学科にはどんな影響が出ているのでしょうか。大阪府立高校でグローバル系の学科を持つ15校(旭、東、箕面、枚方、いちりつ、花園、長野、和泉、佐野、日新、住吉、千里、泉北、南、西)の志願倍率を、過去9年分まとめてみました(注1)。ちなみに第1志望の人数で計算しています。

 平均倍率は表の通りです。15年入試まではグローバル系の学科は前期入試(2月に行われる入試)だったため、高倍率です。後期日程に一本化された16年度はひとまず1・58倍に下がりつつも高めの倍率となりました。しかし、次年度のわずかな揺り戻し以降は低下が続いています。23年度入試では、ついに0・98倍と過去最低を記録しました(注2)。

 23年度入試では募集のある13校中7校が定員割れを起こし、普通科志願の受験生が第2志望のグローバル系に回される事態も珍しくなくなりました。
 箕面高校のみ1・88倍と高倍率ですが、それでもピーク時の4・68倍と比べると大きく低下しています。なぜでしょうか。

[仮説1]英語学習の低年齢化で魅力が薄れている?

 一つは英語の低年齢化です。英検なども低年齢化が進んでいますが、17年度から府立高校の入試で英検2級は80%、準1級は100%の得点保証がはじまり、受験段階で英検2級以上を取得する中学生が急増しています(17年度344人→22年度3491人)。

 22年度入試は北野高校の出願者の何と9割超が制度を利用しました。もちろん民間検定だけが英語学習ではありませんが、受験生の多くは英語との戦いは高校受験の前に終了しているわけです。このため、高校で英語に特化して学びたい中学生は減っているかもしれません。

[仮説2]1クラスしかなく、減るに減らせない

 次に考えられるのが、私立高校との競争です。グローバル系といっても公立なので、お金のかかる長期の海外研修や少人数授業には限界があります。その点、私立高校の中には1年前後の留学や、海外の高校と提携して両方の卒業資格を得られる、中には海外の有名大学の進学が有利になる国際バカロレアのディプロマが取得できるなどのカリキュラムを備える私学もあります。

 また、大学の受験勉強を考えたとき、高校の3年間より、中高一貫の6年間の中で海外研修を配置するカリキュラムは安心感が違います。英語力やグローバル感覚に応える私学の学習環境の充実が、公立高校のグローバル系の志願者減につながっているのかもしれません。

[仮説3]学習環境が充実する私学には勝てない?

 入試制度が変わった16年度以降で考えてみます。府内の公立中学の卒業者数は1987年の約14万8千人から減り続け、2016年には約7万5千人、23年は推計6万7千人です。前述のグローバル系15校の定員推移は16年の1318人から23年の1178人で、約11%減と中学生の減少割合とほぼ同じですが、水都国際の新規募集80人を加えると5%減となり、人口減の方が大きくなります。また、各校のグローバル系の定員はほぼ1クラスであることから、ダウンサイジングが難しくなっています。

[仮説4]どの学科も標準装備になってきたから

 中学校の英語教材も改訂され、実際の会話の場面を想定した内容も多くなりました。高校の学習指導要領も22年度から改訂され、「英語表現」という科目が「論理・表現」と実践的な内容になるなど、普通科でも「使える英語」教育に変化しています。加えてグローバル系でなくてもオンライン英会話や、海外研修を行う学校も珍しくありません。

 つまり、あえてグローバル系でなくても十分に英語学習や異文化体験ができるのです。

 しかし、逆に言えば、英検などの外部資格向けの学習経験もなく、英語が得意ではないが英語力を付けたい中学生にとっては、志願倍率が下がってきたグローバル系は狙い目かもしれません。ネイティブ教員も参加する会話やプレゼンテーション中心の授業などの特色を、説明会やオープンスクールなどで聞いてみてはいかがでしょうか。


[注1]20年に英語科を廃止した大阪市立西高校、22年度から募集停止した大阪市立南高校も定員推移の計算に入れるために加えています。一方特別選抜の水都国際高校は除外しています。[注2]複数の学科を持っている学校は、第1志望者だけで計算しています。