石破内閣が誕生したと思ったら、アッという間に「与党過半数割れ」の不安定状態。一方、米国では『もしトラ』『ほぼトラ』の見出しが躍っていたと思ったら、やっぱり『またトラ』でドナルド・トランプ(78)前大統領が来年1月に再び大統領に。返り咲きは132年ぶりの珍事と驚きの連続だった。石破総理が最も得意とする防衛問題に絞って、トランプ政治と「どう対峙するのか?」を予測してみた。
胆力試される〝防衛プロ〟石破総理
再登場〝猛獣〟の操り方はコレ!
「金出せ!」と脅すトランプ
トランプ政治は『アメリカ第一主義』で、すなわち「米国経済を豊かにすること」だ。地理的に欧州でウクライナが、アジアで台湾が、そして中東でパレスチナがどうなろうとも「海を隔てた米国にとっては痛くもかゆくもない」と平気で切り捨てる。「戦争行為自体が壮大な無駄」と感じ、有事でも自国兵力を動かす気はない。むしろ無理難題を吹っかけて、応じない相手には同盟国であろうと平気で〝高関税〟という筋違いの横車制裁を科す。
日本でも「トランプ政権回帰で景気がよくなる」と歓迎する人がいるが、中長期的には間違い。米国の〝利益独り占め〟を狙い、自国以外の地球上すべての人々の未来を不幸にしかねない。
彼の理想とあこがれは中国・習近平国家主席やロシア・プーチン大統領のような独裁政治家と見る。トランプは前政権時に自身に寄り添ってくれた安倍晋三・元総理に対し「石破はシンゾーの敵」と知っているし、関心は「日本は少数与党らしいが、私との約束を実行させるには?」しかない。防衛面では日本のお金を無尽蔵に米国へ提供させようとする。具体的には「防衛装備品の購入増額」「思いやり予算の大幅引き上げ」の2点だ。
トランプの政権移行チームは既に「いかなる国も防衛ただ乗りは許さない。それぞれが防衛力を強化せよ」と迫っている。次々任命されている〝トランプのイエスマン〟スタッフは、より具体的に日本に「〝2027年度までに防衛費GDP2%達成〟目標は遅いし少ない。中国の脅威を理解しているのか?防衛費は3%必要だし、最終的に4~5%まで増やせ」と要求。思いやり予算も「5年ごと見直しで総額20億㌦は少な過ぎる。次の27年度以降は総額80億ドル、いやそれ以上よこせ!」とごり押しを始めている。「嫌なら駐留米軍撤退!!」の脅し文句が得意な連中だ。
石破の防衛理論とは?
石破総理の防衛に対する基本理念は「自衛官処遇改善」「日米地位協定の見直し」「アジア版NATO(米加と欧州EU各国などの軍事同盟)創設」の三本柱。
自衛隊の装備や自衛官待遇の充実と、党内右派の「対中国・韓国への強硬姿勢」とは似て非なる内容。総理は8日の関係閣僚会議で自衛官定員割れ(22年で24万7154人、充足率92%)と新規採用人数の低迷(募集に対し51%)を問題視。「放置してはいけない」と25年度予算で給与改善などの対策を指示。これらを補完する予備自衛官も約3万人と定員の7割しか確保できていない。総理は先の自衛隊創立70周年記念・観閲式で「自衛隊は今や国民の9割に好印象を持たれている。今後、万全の体制を構築する」と約束。防衛相だった時に艦船や基地の整備が予算不足で遅れ気味だったことを実感、てこ入れへの思いは人一倍強い。
次に総理の考える「日米地位協定」のあるべき姿だ。総裁選で「主権独立国家として、現在の非対称な関係を見直すべき」と述べている。過去、沖縄で米兵による犯罪が起こるたびに立ち入り捜査権や身柄拘束裁判権のあり方が問題になったが、総理は「自分たちの運命を自ら決められる国」という表現で米兵や軍属への特別待遇を改め、代わりに自衛隊のグアムなど海外での訓練実施を提案。米国側をざわつかせた。
最後に総理の言う「アジア版NATO」は最もハードルが高い。現在、日本が関わる同盟は日米安保以外に、軍事同盟「オーカス(日米英豪)」、戦略対話「クアッド(日米豪印)」があるが、敵対的対象と見なされた中国からは「時代遅れの冷戦構造」と批判されている。一歩進んだ「アジア版NATO」となると、日韓比ぐらいまでの参加は何とか読めてもASEAN(東南アジア10国の連合)は国によって中国との距離感が異なるうえに、台湾は国交自体がなく加入できない。これらは憲法上の整合性もあり、すぐには実現困難だが、総理と同じ防衛族の小野寺五典・党政調会長をトップとした研究機関の党内設置を指示。同政調会長は「議論を開始する」と述べている。
敗戦が原点、駐留米軍
日本は戦後まもなくはアメリカ進駐軍という形で米軍基地や施設が国内各地に多数点在した。それが次第に沖縄へ移設され、沖縄が本土に復帰してもなお、在日米軍基地・施設の7割が同県に集中している。
民主党政権下の09年から4年間で、当時の鳩山由紀夫総理は「東アジア共同体構想」を打ち出し、普天間基地について有名な「最低でも県外(移設)」を示唆して大騒ぎになった。「日米地位協定」を含む日米安保の中身で当事者同士がもめると中露朝の周辺専制国に「日米安保がうまくいっていない」と足元を見られかねないが、先に困ったのは米国側だった。
米国第一のトランプ政権が最初に要求してくるのは「思いやり予算」の増額だ。本来、日米安保では「経費は米国、場所提供は日本」と規定されているが、日本側が駐留経費の一部を負担。スタート時の1978年に年額62億円だったものが2021年にはイージス艦1隻に相当する当初比34倍の年額2100億円にまで膨れ上がっている。自由主義国中の米軍駐留経費負担で日本の金額は約75%とずば抜けて多い。他国はせいぜい30~40%だ。この予算は5年分がまとめて改定され、16~20年で計9800億円だったのに対し22~26年1兆551億円(約70億㌦)と徐々に上がっている。26年末に次期交渉があり、北東アジア情勢にうといトランプ政権は日韓両政府に100億㌦ぐらい平気で吹っかけてきそう。けっして相手にしてはいけない。
次に「武器を買え」の要求。日本の防衛費は「27年にGDP(国内総生産)2%へ倍増」を岸田政権が掲げ、石破総理も継承。19~23年の5年間総額27兆4700億円が、23~27年同43兆円と1・5倍に増額を計画。既に日本の軍備費は米中に次ぐ世界第3位まで増えた。増額財源だが石破総理は所得税・法人税・タバコ税を原資に「年内決着」を明言。しかし、衆院過半数を占める野党は同音異句に増税に反対、27年度からの実施は一転不透明に。「3~5%」などとんでもない話しだ。
トランプが前政権時に仲良しだった安倍元総理は「うまく要求をすり抜けた」との印象が強いが、実際はステルス戦闘機「F35」を100機追加購入させられ、計147機も押し付けられた。1機148億円と極めて高額で維持費は年8億円。役にも立たない「イージス・アショア」(イージス艦用弾道ミサイルの地上配備)や「トマホーク・ミサイル」など、合算するとべらぼうな金額で「仲良くてもビジネスは別」のトランプの強引なやり口が透ける。
石破外交、瀬戸際力磨け!
国民にすれば「そんなに無茶ばかり言うなら、いっそ米軍基地に出て行ってもらえば?」が本音だが、さりとてミサイルを撃ちまくる北朝鮮や北方領土占拠のロシア、尖閣諸島を虎視たんたんと狙う中国などの専制諸国がすぐお隣では自衛隊だけで対処するのは「大丈夫?」との心配がよぎる。
このピンチは日本独立論者の石破総理にとって、戦後一貫して外務省主導で続いてきた〝米国追従外交〟そのものを見直す大チャンスとも取れる。トランプ政権に強く押し込まれても「今の日本国会は少数与党なので直ぐには…」とノラリクラリと確約を避け引き延ばし、煙に巻けばよい。
インフレ拡大と格差の広がりで国民の不満が高まり、政権が揺らいでいるのは日米だけではない。英国は政権交代、フランスは連立内閣が崩壊し首班首相交代、ドイツも連立政権崩壊で総選挙前倒しになった。自由主義先進国に共通するのは「国際協調見直し、自国民優先」を望む有権者の怒りだ。
今の石破政権は三重苦状態。与党自公だけで何も決められず国民民主党に頭を下げ協力要請、一方党内は「いつ倒閣運動が起きてもおかしくない」という不穏な雰囲気。仮に野党のどこかが内閣不信任案を出せば即成立の危険性も高い。
立場が極めて不安定な政権だからこそ「トランプ諸要求から日本を守る!!」と〝自国優先〟方針を世論に訴えて味方に付け〝前例踏襲〟の対米追従外交から脱し、在日米軍に頼らない新たな防衛体系再構築のチャンス。念願の自衛隊装備拡充や隊員給与引き上げも一挙に進む。
仮に〝米軍撤退〟をチラつかされても「21世紀の戦争は直接撃ち合いだけでなく、サイバー攻撃を含めた情報戦。中露朝と地理的に近い日本を抜きにして戦えますか?」と逆に脅し返すぐらいの胆力が大切。そこまでできれば石破総理の〝瀬戸際外交〟は大成功間違いなしだ。