【外から見た日本】「物価と給料」日米の考え方の違い 

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏

 アメリカでは、原価が上がると価格が上がる。少し遅れて給料も上がる。日本では原価が上がっても企業努力で吸収し価格を上げない。だから給料は上がらない。

 日銀の黒田総裁が「国民が物価上昇を受け入れ始めた」とコメントして炎上したが、これは国民が「物価上昇を受け入れたくない」という意思の現れだろう。つまり「物価は上がらないが、給料も上がらなくていい」という事になるのだが、経済の仕組みを考えると、物価を抑えたまま給料を上げていくのは無理がある。

 モノやサービスの価格は、仕入原価に労働賃金などのコストを積み、そこに企業の利益分を上乗せして決まるのが普通だ。アメリカではこの計算で、ほとんどのモノの値段が決まる。このため、原価が上昇すれば価格も上がる。至極当たり前の理論だ。国民も文句は言うけれど、上がる事を否定するより、その物価上昇にどう対処するかを考えたり、自分の行動を変容させたりする。一番は、より高い報酬を求め転職すること。次は給料アップを交渉する。ゆとりのある人なら金融資産の一層の有効活用を考える。他にも生活費の安い土地へ引っ越す人もいる。

 日本は一度上げた給料は簡単には下げられない国だが、景気が悪くなるとそれが重しになってしまう。そのため経営者はできるだけ給料を上げたくないと考える。一方、アメリカでは不採算と見た人材をどんどん解雇できるので、労働者は頑張った時、成果を出したときにはしっかり昇給させてもらう分、ダメなときは解雇されるリスクを理解している。メジャーリーグの選手がそうである様に、報酬の額は違えど、仕組みはあれに近い。

 スーパーのレジ打ちでも、他人より時間単位でさばける客数が多ければ、それを理由に昇給を交渉する。営業職や技術職、サービス業などでも出来る人はより高い給料を交渉で求め、受け入れられなければ、希望を受け入れてくれる会社に転職するか、独立して起業したりする。私自身、在米中に「他人の会社のためにこんなに働くなら…」と思い起業した一人だ。

 一般に新卒の段階から同期の間でも給料の額は違うため、同一労働同一賃金という概念はない。同じ職種だからと言って同じ成果を挙げているわけではないので、結果も違うのは当たり前。私も勤めていた頃は、給料も含めた契約内容が一人一人違っていたのを覚えている。

 日本経済は産業構造が自動車産業の一本足打法になっているが、アメリカは製造業を国外へ移設したとは言え、ハイテク製造業(航空機や宇宙関連、軍事関連など)は国内に残っていたし、新興企業(Google、 Facebook、Amazonなど)が高付加価値産業を創出し、高給な職が増えたり、給料自体が上昇したりした。ストックオプションなどで億万長者もたくさん誕生している。最近は製造業でもテスラのように高付加価値のある職が国内で増えている。

 物価と給料は本来、強い関係性があるが、日本は必ずしもそうではない。また雇用は安定しているほど、昇給は難しくなる。昇給を求めるならリスクを取って行動を起こすべきだ。上司や新たな企業に自分を売り込んでみるのも楽しいかもしれない。そして社会全体で高給をもらえる職種自体を増やしていく必要があることも強く感じる。

【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。