【サイエンス 会長・青山 恭明さん】「ミラブル」で一世風び。 万博に夢の「人間洗濯機®」を展示

インタビュー中に実験を披露する青山会長
インタビュー中に実験を披露する青山会長

 5年で150万個を販売するヒット作「ミラブル」を生み出したサイエンスの青山恭明会長。超微細気泡〝ファインバブル〟の技術をベースに、人間の習慣や文化を変えるほどの製品開発力を武器に、今も未来を作り出し続けている。2025年の大阪・関西万博では、70年万博のレガシーを目標に「ミライ人間洗濯機」を出展。夢を追い続ける青山会長に、阪本晋治が迫った。

人間の習慣を変えてしまうほどのすごい製品開発を

 ─青山会長は幼少期に1970年の大阪万博を経験されている。

 当時、私は小学4年生。親に頼みこんで20回以上も会場に足を運んだ万博少年だった。会場で目にする電気自動車や無線の電話、動く歩道…。見るものすべてが新鮮でワクワクした。そして、サンヨー館で人間洗濯機(ウルトラソニックバス)を見たときは驚いた。お湯が自動給水でブワーッと出てくる。当時の生活は家に風呂がなく、毎日銭湯に通う時代だったから「なんやねん、これ」と大きな衝撃を受けた。
 この時の万博で展示された技術などは今、ほとんど社会実装されている。しかし、人間洗濯機だけ実現していないと言われている。

 ─それで55年ぶりに大阪で開かれる万博で、ミラブルの技術を使った人間洗濯機を復活させようと思ったわけか。

 いや、時系列は少し異なる。多くの人は僕らが開発したミラブルがヒットしたから、その技術を湯船に応用してミラバスを開発したと思っているだろう。しかし、実際にはミラブルよりもお風呂の方が先だった。
 約18年前に、あるテレビ番組で工業製品を微細気泡で洗うという技術を知った。その番組を見たとき、パッと思い浮かんだのが小学4年の時に見た万博の人間洗濯機だった。弊社は家庭用浄水器の会社で水を扱うことに縁があったこともあり、「微細気泡を出す浴槽を作ったら、人間洗濯機ができるんちゃうか」とひらめいた。
 ただ、当時のサイエンスは売上2億円程度の企業。作りたいと思っても莫大な開発費が必要になる。仮に完成したとしても売れなければ会社は倒産するかもしれないという状況だった。

 ─ところで、当時はどのような家庭用浄活水装置を販売していたのか。

 「サイエンスウォーターシステム」という製品だ。住宅に引き入れる水道管の元にこの浄水システムを取り付ければ、キッチンやお風呂、トイレなど家中の全ての水栓からきれいな水が出てくる。

 ─〝きれい〟と言ってもどのような水なのか。エビデンスは?

 弊社はエビデンスが大好きな会社なので、第3者機関から取得している。
 水質検査では一般的に「酸化還元電位」という数値が用いられる。これは物質を酸化しやすい状態にあるのか、還元しやすい状態にあるのかを表す度合いを示すものだが、数値が低い方が不純物が少なく、良い水とされている。
 その値で言えば、サイエンスウォーターシステムを通過した水は、市販のミネラルウォーターよりも低い。つまり、ミネラルウォーターよりも良い水ということだ。
 いくつかの大手住宅メーカーでは、われわれのこのウォーターシステムとファインバブルの浴槽「ミラバス」をセットにし、住宅の標準装備にしてくれている。住宅メーカーのショールームには体感コーナーも作られており、片手を水に浸けて見比べると明らかに色が白くなることから、それが住宅購入の決め手になる人も多いようだ。

ファインバブルについて説明する青山会長=大阪市淀川区
ファインバブルについて説明する青山会長=大阪市淀川区

 ─確かに水にこだわる人はすごく増えている。赤ちゃんのミルクを作るのにも、もはや水道水を使う人はいない。

 その通りだ。ただ、料理に使う水は浄水を使っているのに、野菜を洗うときは水道水
を使っている人が多い。実は水道水に含まれる塩素はビタミンを破壊する力がある。一般に、水道水で野菜を洗うと一部のビタミンは塩素と結びついてしまい、中和されて消えてしまう。

 ─それは知らなかった。「一番風呂はよくない」という話も聞くが、同じ理由か。

 そうだ。体に塩素が吸着してしまう。つまり、一番風呂に入る人は浄水器のフィルターの代わりを務めていると言うことだ。だから僕たちの浄水システムを使えば、そういった心配が必要なくなる。

 ─13年前に福島第一原発事故の影響で、水道水から乳児にとっての指標値を超える放射性ヨウ素が検出された。このため一時期、水道水の使用が禁止されたことを記憶している。そういった放射性物質は除去できないのか?

 水道水が使用禁止になった当時、実は弊社の浄水システムはすでにあるマンションに導入してもらっていた。そこで、協力してもらい水質検査を行っている。

 ─結果は。

 浄水器の中で水をゆっくり通過させれば不純物の除去率が上がる可能性も想定し、2パターンの実験を行った。
 一つはキッチンの蛇口を目一杯解放したときと同じ毎分10㍑の水。もう一つはゆっくり蛇口をひねったときの毎分2㍑の水だ。結果、毎分2㍑なら全くヨウ素が検出されないかった。

 ─なるほど。サイエンスはもともと水に強いこだわりを持った会社だったわけだ。ところで、人間洗濯機の話に戻るが、当時は売上2億円の時代で開発費もままならないと冒頭でおっしゃられていた。どうやって実現していったのか。

 まず弊社の浄水システムを導入してくれたあるマンションの常務に酒の席だったが、僕が考えていることを聞いてもらった。すると、その話を聞いた彼が「青ちゃん、どれだけすごいことを言っているか自分で分かっている?」と言われた。
 彼が言うには、お風呂で体をゴシゴシこすって汚れを落とすのは、人間の習慣として何十年も染みついている。それなのに湯船につかるだけで、全身500万個の毛穴をクリーニングし、保湿までできるとしたら、人間の習慣を変えてしまうほどのすごいことだ、と。
 その一言が大きかった。そして死に物狂いで16年前、日本初の「ビルトイン型マイクロバブル入浴装置」を完成させた。何とも長ったらしい名前だ。

 ─万博で最新の人間洗濯機がお披露目されれば、人間の生活習慣を大きく変えてしまうインパクトがありそうだ。

 僕が万博を目指したのもそれが理由だ。実はミラブルの誕生も利用者の声がヒントになった。ミラバスを導入するあるマンションの居住者に協力してもらい、大規模なアンケートを実施したところ、驚くべきことがわかった。頭から湯船に潜り、顔と髪の毛にファインバブルをあてているという声が多く出た。

 ─それで超微細な気泡を発生させるシャワーヘッド「ミラブル」の開発に至ったわけか。

 最初はコンセントを差して使う美顔器のようなスタイルを考えたが、それでは生活に溶け込まないと思い直した。僕らが毎日の習慣でネクタイを締めるように、日々の習慣に溶け込ませる必要があるからだ。そうでないと面倒になって使わなくなる。
 そこで思いついたのが毎日浴びるシャワーだった。小さなシャワーヘッドの中で超微細な気泡を発生させるのは本当に困難だったが、開発者らの努力もあって2年がかりで完成させた。
 当時のシャワーヘッドといえば、壊れたら交換する程度の認識しかなく、シャワーヘッドに価値を求めて交換する文化は全くなかった。市販のシャワーヘッドが2、3千円で買える時代なのに、ミラブルの販売価格は4万円弱。それでも5年で150万個を超える大ヒットとなった。

 ─価値を求めてシャワーヘッドを交換する文化が日本になかった時代に、ミラブルで新しい文化を作った。

 18年にミラブルを発売したときはすでに人間洗濯機の開発に入っていた。だから、かなり前から弊社の場合は万博に賭けていた。そしていよいよ来年、大阪ヘルスケアパビリオンでお披露目する。

 ─万博に展示する人間洗濯機を話せる範囲で。

 テーマは「体も洗う、心も洗う」だ。体を洗浄すると同時に、AIが疲労度合いやストレス状況もチェックする。そして映像や音によって自律神経を整えるなどして〝心も洗う〟という技術だ。
 あと、人間洗濯機の開発過程でわかってきたのが、年代によって肌質や肌の悩みが異なることだった。このあたりは水流を変えて各年代に適したケアが必要になる。その発想から生まれたのが、現在販売している3種類の世代別ミラブルというわけだ。

 ─話を聞いていると万博が楽しみになってきた。70年万博の人間洗濯機にできなかった社会実装をぜひ期待したい。

企業情報

 国内唯一のファインバブル専業メーカー。高い洗浄力を誇るシャワーヘッド「ミラブル」で一世を風び。主力製品には、浸かるだけで体の老廃物を取り除く画期的な入浴装置「ミラバス」や浄水装置「サイエンスウォーターシステム」も。2025年大阪・関西万博には55年の時を超え、同社のノウハウを詰め込んだ人間洗濯機を展示予定。2030年のSDGs達成と本格的な海外進出へ向けて前進し続けている。

青山会長(左)と阪本晋治
青山会長(左)と阪本晋治

株式会社サイエンス
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