コミュニケーションライター/黄本恵子
人は誰しも、「この人は自分の気持ちを分かってくれている」と思う存在に心をつかまれるものです。そして、相手にそう思わせるにはコツがあります。
以前勤めていた会社で、雑談中、Sさんという女性が、仕事に悩みを抱えていた男性社員に向けて、こんなことを言いました。
「〇〇くんとしては、そんなやり方で仕事を取るのはとても嫌だろうし、絶対にやりたくないと思ってるでしょうね」
その男性社員は、ハッとした表情でSさんを見つめ、こう言いました。
「そうなんだよ。だから俺、社長から嫌われるかもしれないけど、この件はきっぱり断ろうと思ってて。よく分かるね…」
その後、男性社員はSさんのことを意識するようになり、まるで恋の奴隷のようになっていました。
このように、あたかも相手の心の中を読んだかのように伝えることを『マインド・リーディング』と言います。人の心をつかむのが上手な人たちがよく使っている心理テクニックのひとつです。
マインド・リーディングは、「私はあなたの気持ちを分かっていますよ」「その気持ちに共感していますよ」という2つの大切なメッセージを相手に届けることができるのです。
マインドリーディングの例
日常会話で
・「さっきの部長の話、本当は納得いかないって思ってたでしょう」
・「お子さんからのその言葉、○○さんとしては、何よりうれしかったでしょうね」
ビジネスで
・「コスト面について不安を抱いていらっしゃるかもしれませんね」
・「とても大切な目的を持ってお問い合わせをしてくれたのだと思います」
相手の心をつかみ、時に「この人には敵わないな…」と思わせるマインド・リーディングですが、使い方を間違えると「この人は何も分かってくれていないなあ」「何を的外れなことを言っているんだ?」と思わせることになり、まったくの逆効果になってしまいます。
マインド・リーディングを効果的に使うためには、以下の2つの力を磨くことが必要になってきます。
❶傾聴力
話を熱心に聞いてくれる人には、自分のことをたくさん話したくなるもの。聞き上手になることで、相手の大事にしている価値観、ストレスに感じること、響く言葉など、さまざまな情報を引き出すことができます。
❷観察力
人の気持ちは、言葉よりも、「視線」や「体」の動き、「仕草」や「声色」に表れることが多いものです。相手をよく観察することで、相手の本音や心情の変化に気づくことが可能になります。
相手が「本当は分かってほしいと思っていること」や「本当は言いたいけどなかなか口に出せないこと」を、マインド・リーディングを使って上手に引き出してあげてください。
黄本恵子(きもと けいこ)
大阪市出身。1980年生まれ。関西大学社会学部卒業。心理学について学びを深め、人間関係に悩む人々のカウンセリング業務に従事。その経験を活かし、家族間や男女間のコミュニケーションについての記事を大手WEBマガジンにて執筆。ビジネス書の編集・執筆協力にも多数携わる。米国NLP協会認定 NLPマスタープラクティショナー。
〈メディア出演〉ニュース番組『新・情報7daysニュースキャスター』に出演。「高齢者の親に免許返納を促す伝え方」についての記事が反響を呼び、取材を受ける。朝の情報番組『ビビット』に出演。「2歳児ができること」について紹介した記事が取り上げられる。