【外から見たニッポン】ビートたけしが「アンビリバボー」降板

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏
【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。

 ビートたけしが「奇跡体験!アンビリバボー」を3月いっぱいで降板する。ギャラが折り合わなかったとか。だからどうした?というニュースですが、少し触れてみたい。なぜならその番組の第1回スタジオ収録の際、その場に居合わせたという縁があり、その後1年近くニューヨークから番組製作のスタッフの1人として関わったからです。ビートたけしという人間についても、そのオーラのすごさはこれまで会って来た多数の有名人の中でも群を抜いていました。

 「奇跡体験!アンビリバボー」は当時イーストという大手制作会社(現E&W)とその他何社かの制作会社が集まって制作していた番組で、スタート時は入念なリサーチに基づいて取材をして再現ドラマを制作していたのですが…。

 長らく番組は視聴していませんが、視聴率が全てを物語っていると思います。そしてよく今まで続いたな、というのが本音です。
制作内部では番組開始当初からそれ程の熱量を感じる事はなく、同時期にスタジオ収録に立ち会っていた「世界まる見え!テレビ特捜部」などと比べると格段の差がありました。

 「世界まる見え!テレビ特捜部」は当時、平均視聴率20%を超えており、それを下回ると「何が原因だ?」と会議が行われていた程で、収録時にスタジオに充満するエネルギーはものすごいものがありましたし、スタッフも生き生きしていました。

 「人が見たがる番組というのはこういう風に創られていくんだな」というのを肌で感じましたし、制作者のエネルギーは画面を通して視聴者にも伝わるのだと知りました。

 末端まで全員を含めると100名を超えると言われたスタッフ陣と、1本1億円とも言われた予算で番組は制作されていました。潤沢な人材と予算のおかげで、細部まで拘って時間と手間とお金をかけた番組作りをしていたものです。

 ある日そのスタジオに向かう広い廊下を歩いていると、向こうから誰かが歩いてきました。十分にすれ違うだけのスペースがあったにも関わらず、相手が誰か認識出来ないうちに私は廊下の端に寄って、その「人」に道を譲っていました。言葉にならない圧倒的な威圧感で自然と押しのけられたかの様でした。そう、それがビートたけしさんです。あんな経験は後にも先にもあの1回だけです。顔を見て避けたのではなく、自然と体がそう反応したのです。自分でも驚きでした。

 本物とニセモノの差。それは内からにじみ出て来るモノだと思います。見かけだけを整えても中身が伴わなければ意味はありません。番組作りも同じで、中のスタッフがポジティブに楽しんで制作に向き合っていれば、それは作品を通して視聴者にも伝わります。そしてこれは番組作りに限らず、あらゆるビジネスや人生の瞬間でも同じ事が言えます。

 表面だけ繕って行うサービスや、その様な心構えで作った品物はやはり魅力に欠けます。今の仕事に、人生にどれだけ真摯(しんし)に向き合っているか、自問してみてください。