〝ガソリン減税〟なぜできぬ 伝家の宝刀「トリガー条項」って何?

 原油価格の高騰で、ガソリンの値段がうなぎ登り。消費者の財布に打撃を与えている。

 こうした状況の中、ガソリン税の一部課税(25.1円分)を停止する「トリガー条項の解除」の話が幾度となく出ている。しかし、政府・与党内ではこの課税停止は見送り、石油元売り会社に直接支給する補助金を5月以降も継続する方針を固めた。

 政府はガソリン減税を見送った理由を「現在行っている補助金の支給が一定の効果をあげている」「税率が変動した場合、ガソリンスタンドの事務負担が増える恐れがある」などと説明しているが、果たして本音なのか。

 背景には予算権を握る財務省の「財政規律」を金科玉条に「何が何でも減税はしたくない」という思惑がチラついている。

現れては消えるトリガー解除 先送りの裏には財務省か?

 まず、トリガー条項とは何かを説明したい。ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で1リットル160円を超えたら消費者の負担が増えるということで、ガソリン税のうち上乗せ分の25.1円の課税を停止するトリガーが発動する仕組みだ。一方で、3カ月連続で130円を下回ったら元に戻る。

 このトリガー条項は2010年の旧民主党政権時代に導入された制度だったが、東日本大震災の復興財源の確保を優先するため、一時凍結されているまま。つまり、これまで一度も使われたことがない。

 岸田総理は原油価格高騰の対策として「IEA(国際エネルギー機関)に割り当てられた量の1.5倍に当たる1500万バレルを放出する。米国の6000万バレルに次ぐ規模の放出だ」と胸を張っているが、一時的に供給量を増やして価格を抑えられたとしても、ロシアのウクライナ侵攻などエネルギー確保が厳しくなっている国際情勢の中、いつまで持つのかを考えると、いずれガソリンの高騰は避けられなくなるだろう。

 与党の公明党は当初、政府への緊急提言で原油高騰の対策として、すでに実施した補助金などを拡充したうえで、「トリガー条項」の凍結解除を打ち出し、地方税収の減収分は国が補填(ほてん)するよう求めていた。しかし、4月11日には「補助金の引き上げはそれなりに効果が出ている」(山口代表)との見解を表明し、方針転換してしまった。

 今回、予算案の賛成に回った国民民主党もトリガー条項の凍結解除を求めていたが、困難な場合は、同等の効果が見込める対策を講じるよう求め、凍結解除の見送りを事実上認めた格好だ。

 国民民主党の大塚政務調査会長は「『トリガー条項』並みの価格対策を行うよう求めた」と苦しい言い訳をした。

なぜ、発動されない?

 石油元売会社に25円補助しても、ガソリン価格がその補助金分、直接反映されるわけではない。逆にトリガー条項を凍結解除すれば、直接消費者のガソリン価格が25円下がる。それなのになぜ、補助金に固執するのだろうか。

 元国政担当記者は明かす。「トリガー条項イコール減税なのです。この減税を財務省が嫌がっている」

 国民の生活が厳しくなると「減税だ」という声が出てくるが、財政規律を重視する財務省は、減税に対してネガティブな考え方を持っている。

 最近では経済学者の間でも「国のバランスシートを政府と日銀を一体としてみれば、借金を心配する必要はない。インフレ率だけ見ておけばいい」という意見が大きくなってきたが、財務省は税収が少しでも減ることに、これまでもアレルギー反応を示してきている。

 なぜか。「いったん減税したら元に戻すのが難しい。消費税もガソリン税も減税だけは避けたい財務省の思惑があるのだろう」(同)。さらにガソリンで減税すると、他の税目へ広がるとの懸念もある。

 一部にはトリガー条項の発動に反対する勢力は、地方自治体だと指摘する声もある。確かにガソリン税の中には「地方揮発油税」が含まれる。この分は国から地方自治体に配分され、貴重な税収になっているが、その反対勢力のパワーは小さい。

 そもそも岸田総理の派閥宏池会は、財務事務次官(当時は大蔵省)だった池田勇人氏(元総理)が立ち上げ、伝統的に大蔵、財務の官僚出身者が多く、財務省とのつながりは強い。政治家といえど、事実上の予算配分権を握る財務官僚には強くは言えず、今回もまた忖度(そんたく)する格好となっている。