マンション保険の実態 ビッグモーターで注目。損保巡る問題がこの業界にも

マンション保険の実態

 社会に衝撃を与えた中古車販売大手ビッグモーターの保険金水増し請求。同社が公表した調査報告書は「過剰な修理や実際の施工数以上の請求は、板金業界では業者の規模にかかわらず常態的に行われてきた」ことを明らかにするもので、火の手は同業他社にまで広がりつつある。損害保険を巡る不祥事が注目を集める最中、「マンションの管理組合が加入する火災保険も、実はひどいことになっている」との情報が入った。

このままでは補償されない?
最大の原因は、管理会社の知識不足か

ずさんな加入状況

 「ここ最近、マンションの管理組合が加入する保険の見直しが増えているのですが、その加入状況を見て驚くことばかりです」

 こう話すのは複数社の商品を扱う損害保険のセールスマンだ。その内容とは、必要であるはずの地震保険を付帯していなかったり、共有部の一部が無保険の状態だったり…。

 「あと、建物の評価額の算出は延べ床面積をベースにするのですが、調べてみると、実際の面積が全く違っていたものもありました。本当にありえない状況です」

そもそも火災保険とは

 保険の話と聞くと、多くの人は耳を貝のように閉じてしまうだろう。ましてや身近な生命保険でなく火災保険の話ともなれば、全く関心がないのが正直なところだと思う。

 そこで、この問題を理解するためにも、まずは火災保険とはどういったものかを簡単に説明しておきたい。

 例えば、読者が暮らすマンションで、隣家や近くの部屋が火事になったときを想像してほしい。火の勢いによっては自宅に燃え移ったり、消火作業中に家財がずぶ濡れになったりする可能性があるだろう。そのときに、金銭面で補償してもらえるのが火災保険というわけだ。分譲マンションに限らず、賃貸住まいの読者も、契約時に火災保険に加入しているはずだ。

 実は日本では、失火責任法という法律があり、重大な過失がない限りは、火災を起こした人は損害賠償責任を負わなくて良いことになっている。わかりやすく言えば「自宅の被害は、それぞれが自分の火災保険を使いましょう」ということだ。つまり、出火元が自分でなくても、自分の火災保険で修繕する必要がある。

 ちなみに火災保険には、風災や水災、雪災などの自然災害をはじめ、マンション上階の水漏れで部屋が水浸しになる、空き巣の被害に遭うなどの被害にも備えることができる。

共有部の一部が無保険状態に

 火災保険の構造が理解できたところで本題に移ろう。実はマンションなどの集合住宅の保険は、読者が個人で入る保険と、管理組合で加入する保険の2つがある。

 個人の保険はご想像の通り、自宅などの占有部分が対象だ。一方で、管理組合はエントランスやエレベーター、廊下、集会室などが被害を受けたときに備えるのだが、この共有部に管理組合が掛けている保険が、補償内容が不足していたり、共有部の一部が無保険状態だったり、ずさんな状況になっているのだ。

 3つの具体事例を紹介しよう。

兵庫県明石市のマンションのケース

 同マンションは火災、風災、地震、破損と内容に不備はなかったが、2000年以前の利率が良かった時代に普及し、今の低金利の時代にはメリットのない積立火災という方式で加入していた。保険料は5年間で約1050万円で、満期返戻金が600万円のため、実質の保険料は約450万円。保険代理店を兼ねる管理会社が提案したもので、理事会はよくわからないまま承認したケースだった。見直しによって保険料は約213万円と5割以上安くなった。

大阪市北区のマンションのケース

 住人の繋がりで、車の修理工場を本業とする保険代理店で加入。評価額の算出には延べ床面積がベースとなるが、実際の延べ床が1万平方㍍なのに、6000平方㍍で算出していた。軽微な事故なら保険会社は現地調査をスルーして保険金が支払われるケースがあるが、大きな災害を受けた場合には、そもそもの虚偽報告により、全く補償されない可能性が高い。原因は代理店の知識不足。実態が判明したことで、保険更新時に入り直し、事なきを得た。

大阪市中央区のマンションのケース

 住戸同士を仕切る壁の間は本来、共有部であるのに代理店が「安くなるから」と、補償対象から省いていた。仮に隣の住戸まで火災が燃え広がった場合、個人の保険は壁の表面しか補償されないから、壁が無保険状態で修繕できない状況になっていた。

実は壁の間も… 意外な共有部

 いかがだろう。意外なのが、隣家との壁の間は共有部であることだ。バルコニーも同様で、消防法では住民の避難通路として規定され、共有部となっている。さらに、玄関ドアや窓も内側は占有部分だが、外側は共有部分だ。古いマンションでも、ドアを勝手に変えられないのはこのためだ。

 こう見ていくと、管理組合で加入しているマンション保険の問題は、本業ではない代理店の保険に対する知識不足が招いた結果と言える。万が一が起きた際に〝補償の範疇外〟なんてことにならないよう、住民自身がしっかり把握しておくことが大切だ。

管理会社は保険のプロではない (株)エフケイ大阪支店 横山拓生さんに聞く

 「マンション共用部」に関わるさまざまな事故を補償するマンション保険だが、十分な補償内容でなかったり、割高な保険に加入していたり、ひどい実態にある。マンション保険をライフワークに活動する(株)エフケイ大阪支社の横山拓生さんに、なぜ問題が多いのかを聞いた。

横山さん
「管理会社に悪意があるわけではない。ただ、保険に関する知識が不足しているケースが多い」と説明する横山さん

―マンション保険をライフワークに活動されています。きっかけは?

 私自身、数年前にタワーマンションを購入し、区分所有者になったので、「もしかしたら保険料を下げられるかも」と軽い気持ちで、自宅マンションの管理組合が加入する保険の内容を確認したんです。すると、保険料以前に保険の内容が、予想を遥かに上回る酷い状態にあり目を疑いました。
 これは他のマンションも大変なことになっているのではと思って調べたところ、問題のある物件だらけでした。そこからマンション保険の見直しをライフワークにするようになったのです。

―なぜマンション保険に問題が多いのか?

 多くのマンションでは、理事が輪番制になっています。やっと運営のことが少し分かって来たころには、次の人に交代してしまうわけです。このため、管理組合の代表である理事会は、マンション保険について、内容もよく知らないまま管理会社に丸投げしているケースが多いです。

―管理会社はそれが分かっていて、自社の儲けのために悪意を持って高い保険に加入させているのか。

 いいえ。それはないでしょう。確かに、多くの管理会社は保険の代理店を兼ねています。しかし、管理会社の仕事はあくまでマンション運営のサポートです。日々、保険業界の情報をウォッチしているわけではないので、知識不足になりやすいのです。
 加えて、多くの管理会社は一人が複数のマンションを担当し、しかも3年ほどで担当が変わります。マンション保険は5年更新のケースが多いですから、前回どのような経緯で加入し、どのような話し合いがあったかを知る担当者はほとんどいません。結果、前回と同じ内容で更新するケースが多いです。
 それを何度か繰り返し、最初に何を思って加入したかが分からなくなっています。ずさんな例では、数値が間違っていて、根拠になる資料があるか質問したところ「前と同じ内容で更新しましたので、数値の根拠はありません」と管理会社に真顔で答えられたことがあります。地震保険がついていないことを住人が把握しておらず、慌ててつけられたケースもありました。

―住人が理解することが大切?

 万が一に備えていたはずの保険が、万が一の際に執行できなければ元も子もない。最終的に被害を被るのは、管理会社ではなくて住人ですから。
 そうならないためにも、まずは今、加入している保険に有効性があるのかどうかだけでもチェックしておくことです。その上で、安心、安全な暮らしのために内容は十分かどうか、保険の費用対効果はどうなのか、まで踏み込めれば上出来です。

―実際に動いてみて、どのくらいの割合で、問題があると感じているか。

 数十棟を見てきましたが、肌感覚で本当にまずいと思ったのは全体の20%ほどです。加入する保険を変えるなどして安くなるケースは90%以上に上ります。
 例えば、テクニックの一つとして、評価額の基準は延べ床面積から算出しますが、実際には建築確認申請の面積よりも、登記簿の面積の方が小さくなる。どちらも公的な書類として認められているので、登記簿で算出する方が得です。
 ただ、内容を正しく理解するには、やはり専門家のアドバイスを受けるのが一番です。特定の保険メーカーの商品だけでなく、複数社を扱う総合代理店に相談する方が良い。一部のメーカーでは、マンション管理士を派遣し、修繕計画に点数をつけたり、その管理状況を考慮して、割引の効く商品を販売していたりもしますので。

【取材協力】株式会社エフケイ大阪支店/大阪市北区東天満1─4─16 第2合田ビル2階 206(6467)4123