【対談シリーズ】テコンドー界のレジェンドと学習塾代表の滑らない話

シドニー五輪 銅メダリスト 岡本依子 × 個別指導キャンパス 代表取締役 福盛訓之

 〝笑う門には福来たる〟。新教育総合研究会「個別指導キャンパス」の福盛訓之代表が、各界の人たちと語り合う。対談シリーズの6人目は、テコンドー五輪銅メダリストの岡本依子さん。

やればできる〝I can do it !〟(岡本)
世の中のために生きる価値見つけて(福盛)

シドニー五輪 銅メダリスト 岡本依子さん
おかもと・よりこ
 1971年、門真市出身。四天王寺高、早稲田大卒。世界テコンドー連盟公認4段。2000年シドニー五輪で銅メダル獲得、04年アテネ五輪、08年北京五輪とオリンピック3大会連続出場を果たす。09年に現役引退後、大阪市北区で「ドリームテコンドースクール」主宰。牧師。

―早速ですが、お二人には共通点があります。岡本さんは留学先の米国でテコンドーの「先生」と出会い、五輪への道を切り開いた。一方、福盛さんは中学生の頃に出会った学習塾の「先生」の存在が大きかった。いかがでしょうか。

岡本 私が入ったデコンドー道場の先生は在米韓国人男性で、「Say I can do it・」が口癖だった。人間の能力は無限であり、やればできると。当時、私は20歳、先生は確か36歳でした。先生の姿を見て、将来、こんな先生になって、道場を開きたいと思うようになりました。「I can d it・」と公言する以上、実績が必要です。そのために世界チャンピオンを目指してやって来ました。

福盛 若くて、多感な頃に、いい先生と出会う。とても大切なことです。私の場合、中学生の頃は校内暴力が激しい時代だった。教室は勉強できる環境になく、私はやる気を失っていたのですが、学習塾に入ったら、やる気が出た。塾の先生の教え方がとてもうまく、そして、よく褒めてくれたからです。学校と違って、民間経営の塾は生徒の成績アップに向けた意欲が高い。この原体験があったので、私は塾を起業しました。

―順を追って聞きます。岡本さんが米国留学したきっかけは何ですか。

岡本 早稲田大3年生の9月から1年間、交換留学生としてオレゴン大で学びました。夢を探すためです。バスケットボール、テニス、ラグビー、そしてロシア文学などいろんなことに挑戦しました。大学のテコンドー部にも入りました。私はもともと、空手の経験があり、黒帯を持っていたので、「ブラックベルト」と注目されていました。

―米国の空手映画『ベスト・キッド』のヒットが影響したのでしょうか。

個別指導キャンパス 代表取締役 福盛訓之さん
ふくもり・としゆき 
 1973年、大阪市出身。大学在学中の19歳で起業。96年に新教育総合研究会「個別指導キャンパス」(大阪市北区)を設立。個別指導塾を全国約340教室で展開している。第21回稲盛経営者賞第1位、第1回大阪府男女いきいき事業者表彰優秀賞、紺綬褒章など受賞多数。

福盛 映画の影響と言うよりも、米国人はもともと日本の「ブラックベルト」を尊敬している。このことは、いろんな本に書かれていますよ。

岡本 結局、米国では大学の部活ではなく、ダウンタウンの道場でテコンドーを習うことにしました。そこで、先ほど話した在米韓国人の先生に出会ったわけですが、実は、四天王寺高時代には空手団体の正道会館(総本部・大阪市)創始者である石井和義さんにも指導してもらいました。石井館長は総合格闘技イベントの草分け「K-1」を創設した人です。夢をかなえる大人と身近に接することができたわけです。今でも、石井館長には感謝しています。そして、この正道会館で、門下生と一緒に空手のレベルを上げることができました。

福盛 環境は大事です。明治維新に尽力した薩摩藩出身の西郷隆盛と大久保利通の2人は、同じ町内で切磋琢磨(せっさたくま)しています。お互いに磨かれる場所があったのです。それともうひとつ、岡本さんが石井さんに刺激を受けた点はとても重要です。逆に言えば、大人が夢を語る。この点が大切なのです。私も中学生の頃、塾の先生が雑談で触れた夢や生きざまに心躍らせた思い出があります。私が現在経営する塾講師の学生たちも、将来はこうなりたいという夢を子どもたちに語ってほしいと思います。

―福盛さん自身の教え子に、四條畷市長の東修平さんがいますね。

福盛 私が現場で塾長をしていた頃、中学生の東さんに出会いました。東さんはその後、京都大に合格し、私の学習塾で講師のアルバイトしていたので、付き合いは長く、深いです。東さんは京都大大学院から外務省に入り、その後、野村総合研究所を経て2017年、四條畷市長選に初当選しました。古里のため、立ち上がったわけです。私は、東さんをはじめ、塾に通う生徒や講師を務める学生に対し、「私利私欲はほどほどにし、世の中に役立つ生き方を意識しなさい」と言い続けてきました。私の話が、東さんの心に残っていたのかもしれません。実際、東さんが市長選への立候補報告に来た時、チャレンジしようとする彼の目は輝いていました。

岡本 福盛さんが言うように、大人が生き方を示すことはとても大切ですね。

―岡本さんは米国留学を機にテコンドーの道を突き進み、00年シドニー五輪で銅メダルを獲得するなど、3大会連続でオリンピック出場を果たしました。周囲の反応はどうでしたか。

岡本 やりたいことを受け入れてくれた親の応援のおかげです。それと、実績があると認められるということを経験しました。「将来、道場を開きたい」と言っていた私は、周囲から「やめとけ」と言われていました。でも、シドニー五輪で銅メダルを獲得した後、「道場を開きたい」と言うと、「そのために生まれて来たんですね」と言われるようになりました(笑)。メダルが無かったら認められていなかったと思います。

シドニー五輪 銅メダリスト 岡本依子 × 個別指導キャンパス 代表取締役 福盛訓之

―現在、岡本さんはテコンドー教室を主宰しています。

岡本 中学生から高齢者まで幅広い年齢層の方々が通っています。ストレス解消から競技力向上まで目標に合わせてレッスンしています。私が現役選手だったの頃の実績を、教室の子どもたちは知らないんです(笑)。

福盛 岡本さんと話していると、本当に性格の明るい人だと実感します。

岡本 明るい家族に恵まれていたんだと思います。

―話は尽きませんが、そろそろ時間です。この後、福盛さんは岡本さんからテコンドーを教わることになっています。ひとまず、お疲れさまでした。

(司会は深田巧、上部武宏、写真は佐々木誠)