野球がうまくなるにはバットを振り込み、ボールを投げ込み、筋力を高めることが近道だと思われがちだ。だが、SSLGYM代表の船木永登さんが重視するのは、フォームではなく〝体の使い方〟。脳からの運動指令を変え、選手が本来持つポテンシャルを引き出す独自のメソッドで、現役のプロ野球選手から野球少年までを支えている。仙台育英で甲子園を目指しながらも、自己流の努力に苦しみ続けた自身の経験が、指導の原点にある。(佛崎一成)

変えるのは「フォーム」ではなく「体の使い方」
─野球専門のジムだから、バッティングやピッチング、ボールを使った指導を想像していたが、ここは少し違うようだ。
私たちが指導するのは主に〝体の使い方〟だ。人間の体が本来持っているポテンシャルを引き出し、パフォーマンスをアップさせている。
野球がうまくなるために、ウェイトトレーニングやバッティング練習も大事だが、いくら体を大きくしても、脳からの運動指令が変わらなければ、野球はうまくならない。ジムでは、この脳から出る運動指令を変えていくトレーニングをコアにしている。
自動車で例えるならウエートトレーニングや素振りは車体を鍛えているようなもの。だが、運転が上手になるには、車を運転するドライバー、いわゆる脳からの指令を変えることの方が重要だ。
─それは目からウロコだ。野球の指導者らはよく「上から投げろ」「胸を張れ」「押し込め」などと教えるが、言われたとおりにしてもなかなかうまくならなかった経験がある。
おっしゃるとおり、〝カタチの指導〟ばかりを受けていると、環境が変化すると対応できなくなるケースが多い。例えば、ピッチャーマウンド一つをとっても、球場ごとに傾斜が異なり、足場も違う。にもかかわらず、普段のカタチで投げていてはうまく投げられない。それを何とか手先でコントロールしようとして結局、崩れてしまう。
メジャーリーグの今永選手などはマウンドを自分のカタチに合うようにスパイクで掘ったり、埋めたりして自分でコントロールするが、それは超一流選手だからできること。普通の選手ではその微妙な環境の違いに気づけない。
だから、私たちはマウンドを変えるのではなく、どのマウンドにも適応する〝体の使い方〟を作っている。
自己流で苦しんだ10年が、指導の原点
─なるほど。大事なのはカタチよりも体の使い方、つまり適応力ということか。
私自身、高校時代は東北の甲子園常連校、仙台育英の野球部に所属していたが、残念ながら芽が出なかった。当時はカタチばかりに執着し、フォームはきれいなのに試合ではパフォーマンスが発揮されない。そのことで、野球人生の後半10年を苦しみ続けた。
そんな中、フェンシングの銀メダリスト、太田雄貴選手の指導者に自分のフォームを見てもらう機会があった。すると、わずか10分で改善できたことに、本当に衝撃を受けた。10年間ももがき苦しみ続けてきたことが、一瞬で解決したことに感動し、帰り道で涙が止まらなかった。
現役時代にこのようなトレーナーから教わっていれば正直、プロ選手になれた自信はある。私と同じ失敗をしないように〝体の使い方〟を広めていきたいと思っている。
ズレた身体感覚を整え、眠る力を引き出す
─船木さんが最重要視する〝適応力〟だが、具体的にどう鍛えるのか。
まずはボディイメージ(身体像)がちゃんと認識できているかどうかを見る。実は、脳が自分自身の体の大きさを間違って認識しているケースが結構ある。
実際に試してもらうとわかりやすい。まず、ボールを床に置き、寝そべった時にボールがおでこに着くと思う位置に立つ。位置が決まれば、そのままうつ伏せに倒れてみる。ボールがおでこに着けばきちんとボディイメージができているが、多くの人はズレてしまうはずだ。
つまり、土台となる体の大きさを脳が正しく認識できていないから、さまざまな動作でタイミングなどがズレてくるというわけだ。
─それは面白い。
ボディイメージを鍛えるだけでも、すぐに球速がアップしたり、打球が伸びたりする。特に成長期の子どもは身長が伸び、体型が変わることで、崩れてしまう選手が多い。早い時期からボディイメージを鍛えることが重要だ。
─野球界ではあまり聞かない考え方だ。
これまで誰もやって来なかったと思う。この指導はK─1の世界王者のトレーナーから学んだことがヒントになった。格闘技は間合いや距離感が大切。その視点を野球にも落とし込んだ。
野球界には、変化球のプロ、キャッチングのプロなど技術的な専門家は多くいるが、体の使い方のメソッド、理論はあまり広まっていない。
─介護の世界も、足の筋肉を鍛えても歩けるようにならないと聞く。人間の複雑な動作はすべて脳からの指令。動作をマスターするにはひたすら歩く練習をするしかないと。
考え方は同じだ。野球にも介護にも言えるが、姿勢を良くする場合、みんな背中や胸の筋肉の話をしがちだ。しかし、大事なのは頭の位置。頭の位置さえ整えば、胸や背中の筋肉がどうこうという話ではない。
人間は脳幹を守るために、本能的に頭の位置を調整するが、脳が認知する頭の位置にズレがあると、全てが崩れてくる。このため、頭を安定させるトレーニングもしている。すると筋肉の働きも整っていく。
─実際にトレーニングを見ていると、野球の動きに見えないメニューが多いのはそういう理由からか。
ハードル、ジャンプ、キャッチ、登る動きなど全部で400種類ほどある。野球の技術指導をあまりしなくても、体の使い方が身につけば、球速は上がり、本塁打も出るようになる。無駄な動きを削ぎ落とし、体がもともと持っているポテンシャルを100%出し切れるようにする指導だ。

─多くの人は自分の力を使い切れていないというわけか。
おっしゃる通りだ。一般の人に限らず、野球選手であっても、実際には30%程度しか体の力を使えていないケースが多い。
100%で体を使えるようになると、世界は大きく変わる。野球なら球速が一気に上がるし、ゴルフなら飛距離が伸びる。ムダな動きがそぎ落とされるので、ひざの痛みなどが解消するケースも多い。
仙台育英で追いかけた夢と挫折。そこから見つけた育成の答え
─先ほど高校球児だった話があったが、幼いころから野球少年だったのか。
小学3年から大学4年まで野球漬けだった。もともと運動神経が良く、ドッジボールでも最後まで残るタイプで、陸上や駅伝、水泳でも学校の代表に選ばれるような子どもだった。
小6の時、仙台育英が春の選抜で準優勝したのを見て高校野球に憧れ、その時から仙台育英に行くと決めていた。
─その中で、トレーナーとしての原点になる経験があったと聞く。
小学生のころから野球の本を読みあさり、父親に投球フォームをビデオカメラで撮ってもらい、野球雑誌の連続写真と見比べて投げ方を修正したりしていた。
─かなり研究熱心だ。
ただ、今思えば自己流でカタチばかりを追い求めた結果、反射的な動きが失われ、パフォーマンスが落ちたのだと思う。プロのトレーナーに教わっていればと後悔している。
─その悔しさが、今の仕事につながった。
そう。プロ野球選手になれなかった理由を才能だけで片付ける人もいると思うが、私の場合は自己流が原因だった。だから専門学校に通い直し、プロのトレーナーから学ぼうと思った。自己流で苦しんだからこそ、同じように苦しむ選手をサポートしたい。
大阪進出で広げる、プロと子どもをつなぐ場
─東京・南青山のジムでは、現役のプロ野球選手らも通っている。
プロ野球選手で言えば、3月31日のロッテ戦でノーヒットノーランを達成した日本ハムの細野晴希投手は3年、中日のセットアッパー清水達也投手や日ハムの捕手の郡司裕也選手も5年指導している。
─今回、大阪に進出した理由は。
関西からわざわざ東京のジムまで足を運んでくれる選手がたくさんいた。私以外のトレーナーも順調に育ったので出店に踏み切った。
─1年以内に大阪エリアにも、東京と同じくらいの大きなジムを作るそうだが。
そのつもりだ。現在の大阪・都島区のジムは、後々は小中学生向けのスクールにし、新たに出店する広いジムで、プロ野球選手や大学生、高校生以上をトレーニングしたいと考えている。
広い空間では打つ、投げるもできるし、何よりプロ野球選手と同じジムでトレーニングしていれば高揚感も出てくる。
─プロを目指していた側から、プロを支える立場になったわけだが。
もともと選手という華やかな表舞台にいて、そこから裏で支えるトレーナーになったが、違和感なくやれているし、むしろそれが新しい船木という感覚でいる。プロになれなかったからこそ、私の野球技術や経験則は指導に入れていない。その部分は割り切り、プロのトレーナーとして選手に向き合っている。
自己流で苦しんだ10年があるからこそ、同じように苦しむ選手たちを救いたい。選手が本来持っている力をまずは引き出し、その上に積み上げていくのがSSLGYM。野球選手に限らず、一般の人にも通ってもらい、今はまだ眠っている体本来の力を引き出すことが、私たちの役割だと捉えている。

【企業概要】SSLGYMは、筋肉とそれを動かす神経などを含めた筋活動に関連する能力を強化し、パフォーマンスを引き出すストレングス&コンディショニングジム。特に〝野球の動き〟に特化したトレーニングを行う。体の使い方の指導でスポーツのパフォーマンスを上げるだけでなく、肩やひじ、腰、肉離れなどケガしにくい体に変えることで定評がある。
■SSLGYM大阪店/大阪市都島区中野町5-13-4 桜宮リバーシティ タワープラザアベニュー1階
