先月末、シンガポールのテレビ局から「レアアースに関する報道・ドキュメンタリー番組」の仕事が入った。専門家と製造業者を取材し最新情報を得たのでお伝えしたい。
現代社会に欠かせないさまざまなハイテク機器には、何らかのレアアースが含まれている。自動車や飛行機、鉄道、ミサイルや戦闘機などの武器、医療機器、ロボット、工業機械、人工衛星、通信機器、原発、家電、パソコンなどには絶対に欠かせないものだ。
大阪・関西万博が始まった4月、世界がトランプ関税に震撼した。そこから対立姿勢を見せた中国とのせめぎ合いの結果、レアアースの供給量で世界の90%近くを握る中国が米国に対して輸出規制をかけた。
実は大阪が万博で盛り上がっている一方で、世界はレアアースの確保に必死になっていた。中国が規制をかけるたび、大慌てになっていた。
こうした中、日本はいち早くレアアースの中国依存からの脱却を目指し、さまざまな工夫や戦略を展開してきた。2010年に尖閣諸島での中国漁船衝突事件に端を発し、中国は日本向けのレアアースの輸出をストップ。その結果、日本の産業界はパニックに陥り、すぐに和解する方向で対応する羽目になった。
この経験から、日本政府はすぐにレアアースの供給元の分散と、レアアースに変わるモノの開発などに注力。オールジャパンで取り組みをはじめた。こうした努力の結果、10年当時に供給量の80%以上を中国に依存していが、現在は60%程度に下げることに成功している。また、レアアースの使用量そのものも半減させることに成功した。
こうした背景があったため、シンガポールメディアが「日本はどうやって中国からの脱却を進めてきたのか」を知ろう思ったのだ。この放送局はシンガポールだけでなく、アジア圏全体で広く視聴されているチャンネルなので、アジアの地政学的な観点から、日本以外に中国や米国はもちろん、ベトナムやオーストラリアなどのレアアースの埋蔵量が確認されている国などでも取材を進め、国際的な視点でストーリーを描く話だった。
海外では連日トップニュース扱いだったようで、連絡してきたプロデューサーから日本でのニュースの取り扱いの程度を尋ねられたが、国内メディアでは、それほど大きく取り上げられている印象はなかったし、日本が中国依存から脱却するためにさまざまな政策を実行したり、各企業が驚くような技術をいくつも開発していたことも知らなかった。業界関係者は知っていたのかもしれないが、一般の日本人が記憶に残るほどの扱いで報道されたことはなかったように思う。
こうした事実を知った上で、「日本、なかなかやるな」と思い取材に赴いたのだが、現実はまた違っていた。
取材対応してくれた企業の担当者は「日本政府からの支援を受けているとは公には言えない」と言い、中国からの脱却という国是のようなテーマでスタートしたにも関わらず、同社が開発した技術でレアアースを使わずに駆動するモーターのサンプルを提供している企業の中には、中国企業もあるという。
実際、レアアースそのものだけでなく、レアアースを製造工程で使えるようにするための精錬施設やその技術の大部分は中国国内にある。また、レアアースを使ったモーターなどの買取先として、中国は無視できない市場規模を持っている。このため、中国政府の機嫌を損ねる発言や態度は取りにくい。中国脱却と言って供給割合を減らしたり、代替品を開発できたとしても、中国と縁を切れるわけもなく、世界経済が中国依存から脱却するなどまだまだ遠い未来の話だと言われた。
要するに私たちの生活、日本の経済、世界経済や株式市場は、中国のさじ加減一つという不安定な上に成り立っているのだ。知りたくない現実を知ってしまい、気分は最悪だ。

