
創業初の社長交代と「JAST VISION 2035」発表
大阪市に拠点を置く完全独立系のIT企業「日本システム技術」(東証プライム上場、通称JAST)は7月17日、東京本社(港区)で初のメディア向け事業説明会を開催した。6月26日付けで新社長に就任した平林卓氏が登壇 し、これまでの事業の軌跡とともに、同社初の長期ビジョン「JAST VISION 2035」を発表。売上高を 320億円(2026年3月期予想)から35年には1000億円へ引き上げる挑戦的な目標を掲げた。
創業53年目、初の社長交代と新たな経営体制
JASTは1973年に大阪で創業し、今年で53年目を迎える。これまで創業者で現会長の平林武昭氏のもとで「人を大切にする」という独自の価値観と企業文化を築き上げてきた。バトンを引き継ぐ平林新社長は、これまで同社のコーポレート部門で経営戦略や財務戦略、企業価値の向上に取り組んできた人物だ。
「私の使命は各事業リーダーが最大限に力を発揮できる環境を整えること。社員と横並びで対話を重ね、共感による成長モデルを築いていきたい」と平林社長。第二創業期と位置づけた新体制では、東京・大阪の融合、コーポレート部門の強化、認知度向上など、複数の課題に取り組む方針だ。
教育・医療・金融・物流…社会インフラ支える強み
独立系IT企業の地位を保ってきた同社は、特定の業界に依存しない柔軟な事業展開と、自社ブランド製品の開発力に強みを持つ。主力の DX&SI 事業では、オーダーメイドのシステム開発や開発支援、ソリューション提供などを行い、金融や医療、教育、物流、通信など社会インフラ分野に幅広く対応している。
特に注目されるのが、大学向けの統合パッケージ「GAKUENシリーズ」や、金融機関向け情報統合パッケージ「BankNeo」などの自社ブランド事業だ。近年では、東北大への導入に代表されるように、大規模な国立大でもパッケージ型でノンカスタマイズの運用が可能な信頼性と柔軟性を備え、教育機関から高く評価されている。
また、医療ビッグデータ事業では、レセプト(診療報酬明細書)の自動点検に始まり、蓄積された医療データを分析・活用するサービスに発展。健康保険組合や自治体など500以上の保険者と取引実績を持ち、データヘルスや産学連携における基盤企業としての地位を確立しつつある。

沖縄での陸上養殖支援 新規領域にも挑戦
説明会では、従来の SI(システムインテグレーション)型ビジネスから、より高付加価値型サービスへのポートフォリオ再編についても説明された。平林社長は「今後は単なる受託開発ではなく、コンサルティングや自社サービスの展開、サブスクリプション型モデルへの移行を加速させる」と述べ、ビジネスモデルの進化にも意欲を見せた。
その一例が、沖縄県で進行中の「陸上養殖」支援事業だ。気候変動や過疎化といった課題を抱える一次産業に対し、ICTとIoTを活用して水質管理や太陽光発電による電力マネジメントシステムを提供し、生産性と持続可能性を高める取り組みであり、今後の成長領域として注目されている。
売上高1000億円への道筋
「JAST VISION 2035」は、50周年を終えたJASTが次の50年を見据えて 描く成長戦略で、35年までにグループ全体の売上高を1000億円に到達させる 数値目標が掲げられた。
このうち、現業の延長線上で700〜800億円の売上は見込めるが、残りの200~300億円は新規領域で創出する必要がある。
このため、戦略ドメインとしては農業、地方創生、教育、医療などの社会課題に対し、既存の技術資産と人材力を活かしてサービスを展開。BtoB に加え、BtoC市場への進出も視野に入れており、平林社長は「社会課題にどう向き合っているかを軸に、JASTの存在意義を広く発信していく」と強調した。
人づくり経営が成長の原動力
事業成長の根幹を支えるのが「人づくり経営」であることも、平林社長の口から繰り返し語られた。
大規模な工場や設備を持たない同社の最大の資産は「社員の人間力」だ。創業者の武昭会長が石川島播磨重工業(現 IHI)に勤務していた時代、同社の社長で経団連名誉会長などを務めた土光敏夫氏から受けた「質実剛健・質素倹約」の精神が今もJASTの経営理念に受け継がれているという。実際に離職率はIT業界平均を大きく下回る5~7%で安定しているという。
同社では引き続き、創業者の武昭会長が社員向けに理念講話を続け、エンゲージメントサーベイ(従業員の会社や仕事に対する熱意や愛着、貢献意欲を数値化し、組織の状態を把握するための調査)を定点観測していく。
最後に平林社長は「社会課題の解決に不可欠な企業としてのポジションを確立し、JASTを誰もが知る課題解決企業にしていきたい」と決意を述べた。