【わかるニュース】黒幕イラン怒らせたイスラエル!! 第5次中東戦争の危機!?

イスラエルがイランを攻撃=4月19日(AP/アフロ)
イスラエルがイランを攻撃=4月19日(AP/アフロ)

 イスラエルとイランの〝報復合戦〟が止まらない。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区侵攻の最中に沸き起こった〝場外乱闘〟は、イスラエルを起点として過去4度、アラブ諸国と砲火を交えた中東戦争再燃の危険性をはらんでいる。一度戦争が始まってしまうと、ロシアのウクライナ侵攻からも分かるように、大国の思惑が複雑に絡み合うため国連などは無力。着地点はどこに? 日本への影響は?

過去の大国思惑が残したツケ
中東原油頼みの日本ピンチ

報復連鎖、行き着くのは?

 始まりは今年の4月1日だった。シリアにあるイラン大使館がイスラエルのものとみられる空爆によって破壊され、イラン革命防衛隊の幹部ら13人が死亡するという事件が起きた。
 イランの指導者・ハメネイ師が「大使館は本土と同じ。報復する」と示唆し、14日には歴史上初めてイランがイスラエルを直接攻撃する事態となった。イスラエル側の防空システムが作動し、米英仏の戦闘機がミサイルなどを迎撃。友好国のヨルダンも協力して損害は軽微とされた。
 19、20日には、今度はイラン国内の核関連施設や民兵基地で相次いで爆発があり、死者も出たがイラン側は詳細を明らかにせず、イスラエル側も1日の事件を含めて正式には攻撃した事実を一切認めていない。
 実はここが大事なポイント。イスラエルは特殊組織「モサド」などを使い、敵対国の要人を暗殺したり、破壊工作を密かに行ったりすることが過去にも多々ある。自国の安全を脅かす相手には、正規軍以外で秘密裏に先制攻撃を仕掛けてくる。
 対するイランはイスラム教シーア派の聖職者が指導する宗教国家だけに、イスラエルを「聖地エルサレムを奪い、イスラム教徒を迫害する敵」とみなしている。同じシーア派武装組織の「ヒズボラ」(レバノン領内)と「フーシ派」(イエメン領内)だけでなく、イスラム教スンニ派武装組織「ハマス」(パレスチナ自治区内)を支援して、間接的にイスラエルを攻撃してきた。
 報復合戦で見えてきたのは、イランは「いつでも1600㌔離れたイスラエル領内を直接大量に攻撃できる」という武力の誇示。イスラエルは手の内を明かさず「要人の暗殺だけでなく、イラク国内の核や軍の施設も秘密裏に攻撃可能」の披露だ。
 「核保有国」とうわさされるイスラエルと、核開発を着々と進めるイランが直接戦火を交えることは、全面戦争に陥りかねない危険な兆候だ。イスラエルの背後にいる米国が関与を否定し続けているのには「これ以上巻き込まれたくない」という思惑から。いずれにせよ〝国家の存続〟を賭けたメンツの問題だから、どちらも簡単には振り上げたこぶしを下ろせない事情がある。

中東地図

「トランプ、カムバック!」

 イスラエルのネタニアフ首相は「協調性がなく強硬」と思われているが、実はしたたか。国内政治は少数政党が乱立し、常に連立内閣が余儀なくされる中、強硬な右派勢力をうまく束ねて政権トップに返り咲いた。しかし、汚職の嫌疑が掛けられ、ガザ侵攻が一段落すれば刑事被告人になる恐れがある。つまり、ネタニアフにとって戦争継続と外敵叩きは政権維持に不可欠ということだ。
 昨秋、ハマスの奇襲テロを防げなかった責任を追及されないためにもガザ侵攻の手は緩められないが、次第にバイデン米大統領ら欧米からの非難が増してきた。次の一手としてイランにちょっかいを掛け、欧米の協力を引き戻そうと危険な賭けに出た。
 ネタニアフが頼みにするのは、今秋の米大統領選で復帰を目指すトランプ前米大統領。トランプ時代には世界でも例を見ない〝イスラエルの首都をエルサレムと承認〟をやってのけ、イランに対し「核合意」離脱へ出たからだ。
 トランプの中東政策は単純で「イスラエルにべったりでイラン叩き。友好国のサウジなどとだけうまくやれば、後の中東の国々はどうなってもいい」というものだ。その背景にあるのは、米国は石油石炭を豊富に持つ資源国だから「今や中東原油利権からは得るものがない」というトランプ流のそろばん勘定がある。イスラエルにべったりなのは、米国内のユダヤ資本からの金と選挙の票のためだ。
 つまり、ネタニアフからすればバイデンなど眼中になく、「のらりくらりと秋まで引っ張れば、トランプ再登場でこっちのもの」という理屈になる。

イラン本音「敵は米一派」

 イランはもともと親米だったが、1978年の革命で王政が倒され、イスラム教聖職者がトップに立つ宗教国家になり、反米政権に裏返った。ペルシャ民族でイスラム教シーア派の国。イスラエルはユダヤ民族でユダヤ教だから当然、敵対することになる。
 サウジアラビアは同じイスラム教でもスンニ派のアラブ民族。2016年にサウジ国内でシーア派聖職者が処刑され、怒ったイラン国民が首都テヘランにあるサウジ大使館を襲撃。同じイスラム教王政の国サウジにとって、イスラム革命で王政を打倒したイランは警戒すべき相手であり、一気に国交断絶に至った。
 反発し合う両国の間で、23年3月に仲介に入ったのが中国。米国が去った後の中東利権を中国が握ったわけだ。中国にとっては安定した原油輸入ができるのに加え、台湾や南シナ海諸島の中国への帰属、香港を含む国内人権侵害の諸問題を国際社会で支援してもらおうという思惑がある。
 イランはウクライナ侵攻での武器供給からも分かるように、伝統的にロシアとは関係が深い。中露蜜月の情勢下で、反欧米というキーワードから「イスラエルと事を構えてもすでに後ろ盾は十分」と考えている。

オスマン帝国崩壊後の混乱

 中東は国際政治学者の間では「最大の火薬庫」と呼ばれる。この地域はもともとオスマン帝国が約1000年も統治していた。しかし、第1次大戦に敗れて帝国は解体。現在のトルコ共和国になったことで中東地域は空白地帯になってしまう。
 そこに当時世界のリーダーだった英国が、パレスチナ地域に流浪の民のユダヤ人とすでに居住していたパレスチナ人の独立国家建国を別々に打診し、それぞれの民族から協力を取り付けた。これが世に言う〝三枚舌外交〟だ。結局、第2次大戦後にナチスドイツに迫害されたユダヤ人がイスラエルを先に建国。猛反発した周辺のイスラム圏の国々を相手に過去4度の中東戦争を経て今日に至っている。
 長いオスマン帝国の支配後、大国の思惑で勝手に国境線が敷かれ、山岳地域に住むクルド族などの民族が分断されたケースが中東には数多く点在。宗教・民族・国家がバラバラにせめぎ合うから内戦、内紛が常に絶えない。「国内がまとまらないようにしてリーダー国に頼ってくるよう、あえてこのような線引きを仕掛けるのはアングロサクソンの常套手段」という評論家もいる。

中東原油は日本の生命線

 こうした状況の中で、日本はどう立ち回るべきか? 所属するG7(主要国首脳会合、日・米・加・仏・英・独・伊)で共同の非難声明を出しても、一方の大国・中露が加わっていないから意味を持たない。大国の思惑がせめぎ合って身動きが取れない国連安保理と同じだ。
 中東各国の思惑は複雑でも、イスラエルに対する要求はみんな一致している。『聖地エルサレムの帰属とパレスチナにおける2国共存』だ。1993年の「オスロ合意」で、米国の仲介でイスラエル政府と当時のPLO(パレスチナ解放機構)が2国共存を合意した事実は重い。エルサレム帰属もその後、話し合われるはずだった。
 これが進まないのは、もっぱらイスラエル側に責任がある。調印したラビン首相は自国内で強硬派に暗殺され、当時から「絶対反対」の野党指導者だったネタニアフの台頭を許したからだ。
 核をチラつかせたどう喝合戦になる前に、日本は唯一の被爆国として、欧米主体のG7と一線を画し、時計の針を「オスロ合意」に戻させないといけない。
 日本の原油は90%以上を中東に依存している。原油を運ぶタンカーが通過する紅海の出入り口「バブ・エル・マンデブ海峡」(幅32㌔)はイエメンの反政府武装組織フーシ派に、ペルシャ湾の出入り口「ホルムズ海峡」(同33㌔)はイランにそれぞれ抑えられている。米国のように「中東はどうぞご勝手に」というわけにはいかないのだ。