【わかるニュース】露朝〝軍事同盟〟への備えは? 日米韓、連携は可能か?

先鋭化する自由VS専制
露大統領が訪朝=2024年6月20日(ロイター/アフロ)

 6月19日未明、ロシアのウラジミール・プーチン大統領が24年ぶりに北朝鮮の平壌国際空港に降り立った。待ち構えた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が歩み寄り、互いに抱擁した。
 北朝鮮は核開発で、ロシアはウクライナ侵攻で国連や国際社会から厳しい制裁措置を受けている。そんな中で両首脳は〝相互防衛〟という表現で、事実上の軍事条約を28年ぶりに再締結。欧米や日韓などへの対抗意識を示した。
 これに冷ややかな反応だった中国。ちょうど同じころの6月末に、大阪で米韓の駐大阪総領事館と外務省共催で「政治、外交、経済の側面から見た韓日米3か国協力の状況と課題」と題した合同シンポジウムが開かれた。北東アジアの今後を考えるため、足を運んだ。

合同シンポジウム
米韓の駐大阪総領事館と外務省共催で開かれた「政治、外交、経済の側面から見た韓日米3か国協力の状況と課題」と題した合同シンポジウム=大阪市内

先鋭化する自由VS専制 陣取り合戦、制するのは?

「露朝同盟」28年ぶり復活

 2月に金総書記はロシア極東地区のボストチヌイ宇宙基地を訪問。プーチン大統領は国土をほぼ横断して出迎え、ミサイルや衛星の発射技術について解説。北朝鮮がほしがっている技術を与える見返りに、ウクライナ侵攻で不足している砲弾や弾丸の提供を求めたと言われる。
 北の偵察衛星は失敗が多く、鉄道などのインフラ建設や経済回復も遅れている。すでにロシア観光団の訪朝、北朝鮮製の砲弾がウクライナで使用されたことが西側の情報筋で把握され、両国の接近は既定路線だった。
 『包括的戦略パートナーシップ』と名付けられた条約の第4条で、互いの有事の際に自動的軍事介入を定めた。これは朝鮮半島や台湾での有事に北朝鮮が動けばロシアも関わる危険性をはらんでいる。

露「全面支持」の金総書記

 条約締結に対し、両首脳には温度差が感じられた。
 金総書記は全23条の条約全文をいち早く公開。軍事面だけでなく経済など幅広い協力関係を強調。ウクライナ侵攻に関して「ロシア政府と軍と人民の闘争に全面的支持と固い連帯を示す」と表明。「両国関係は同盟という高い水準に昇り、共同利益に合致する」と最大限の成果を示した。
 北はもともと国際的に緊張を高めることで、交渉相手に譲歩を迫る 〝瀬戸際外交〟が得意。かつて北の核開発を放棄させるための6カ国協議でも、列強の米中露をはじめ日韓をノラリクラリと手玉に取った。韓国が政権交代で反北に傾くと、今年1月には「南北統一放棄」を宣言。〝最大の敵国〟と位置付けた。そして、これまで無視し続けてきた日本との交渉を裏で再開したならば、それも韓国を揺さぶる策だ。貿易取引の9割を依存する中国に微妙に距離を置かれると、今度はロシアに急接近。米国に対しては、かつて直接交渉したトランプ前大統領の今秋再選をにらんで、バイデン大統領とは没交渉を貫くなど、極めて交渉上手だ。

ロシアと北朝鮮の思惑と関係国の構図

策士中の策士プーチン

 対するプーチン大統領も策士だ。まず西側がG7サミット(日米英独仏伊加)に続き、約100の国・機関が参加したウクライナ和平サミット直後のタイミングで訪朝。
 直前には朝鮮労働新聞へ異例の寄稿文を寄せ①露朝の平等と相互尊重は70年の歴史があり、日本軍と共に戦った②ソ連は北朝鮮を国家承認した最初の国③北朝鮮はロシアのウクライナへの特別軍事作戦(侵攻を露国内ではこう呼ぶ)を支持し高く評価してくれている④米国やその仲間達は自らのルールに基づく秩序を世界中に押し付け、新たな植民地支配を行っている⑤欧米の統制を受けない貿易体制を発展させユーラシア(欧州とアジア)大陸で平等な安全保障を構築する─と自説を展開。
 今後の露朝関係は北の核保有を「認めるか否か?」がカギ。中国は米国との関係を考慮して抑制的なのに対し、ロシアが「どう出るか?」だが、プーチン大統領は金総書記のように〝同盟〟という言葉を使わず「国連憲章や両国国内法に準じる」と一定の歯止めを掛けている。
 プーチン大統領の狙いはロシア軍がウクライナで手一杯の間、日米韓による反露的な動きを極東アジアで活発化させないための重しとして北朝鮮を利用するつもりだ。かつて北方領土問題の解決をエサに、安倍総理に期待を持たせ日本からの投資を引き出そうとしたように、最大の関心はロシアの国益。利用価値ある間は愛想笑いをして接するが、状況が変わるとサッと手のひらを返す先例がある。

米中は冷ややかに

 冷戦時代が再び訪れたような露朝接近に、敏感に反応したのは韓国。「反日か反北か?」で国論を二分する中で尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が従来の韓米条約だけでなく日本との連携も強く望んでいるからだ。これは日本も同じで、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領時代の日韓離反だけは避けたいところ。
 露朝接近に抑制的な反応は米中が妙に似通っている。バイデン大統領は秋の大統領選で敗色濃厚。ウクライナで手一杯なのに極東アジアまで関わる余裕は皆無。ASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめグローバル・サウス(南半球の新興諸国)で中立的な国々は大国の思惑に旗印鮮明にする訳にはいかず沈黙する。

シンポでは「まず経済を」

 シンポジウムでは、やり取りを詳細に聴いた。
3カ国の政府が主催しただけでなく、出席者も大学教授などの国際関係論専門家に加え、わが国は姫野勉・特命全権大使(関西担当)、韓国からは金壯炫(キム 民主主義国の常として選挙での政権選択がある。尹大統領は現在任期5年の折り返しだが、11月には米大統領選。岸田文雄総理は9月の自民党総裁選で再選がどう転ぶか?そこで「日米韓3カ国連携を広域化することで、政権交代が起きても協力継続が可能となる」との提案だ。
 自由貿易と安全保障の柱に「自由で開かれたインド太平洋」の考え方を重視する。「主軸はQUAD(日米豪印戦略対話)。それに韓比などが加わってくるが、さらにASEANなどを引き入れるためには〝第2のNATO(北大西洋条約機構)〟を目指してはならない」と軍事同盟化への警鐘を鳴らした。
 コロナ禍やウクライナ侵攻で傷んだ国際的なサプライチェーン(供給への連鎖)の再構築に必要なのは「効率化のための人・モノ・技術の共有」としながらも「3カ国にとって、例えば安全保障の観点から〝中朝に対しこれらを共有できるか?〟という懸念は存在する。そこで〝民主主義と人権〟の共通価値観を持つ国々でまず経済からはじめ、協力を広範囲に深く進めることが大切」との方向性を示された。
 米韓は共に国論を二分するイデオロギー(行動指針)対立が厳しさを増す。わが国では仮に政権交代があっても政治・行政の対応が180度ひっくり返る可能性は低い。事態の推移を慎重に注視するのは大切だが、世界規模で利害が揺れ動く中「〝真の相棒〟抜きで歩む事は難しい」と覚悟しなければならない。