札幌が富裕層滞在の受け皿に 「高級ホテル不毛の地」を返上 五ツ星の計画続々

 握っても雪玉にならないパウダースノーが有名になり、海外の超富裕層が高級別荘を構えるなど、またたくまにリゾート化が進んだ北海道の「ニセコ」。現地の高級コンドミニアムは東京・港区並みで、円安の日本にありながら物価、人件費などは海外並みに上昇。その余波は札幌にまで及んでいる。

(佛崎一成)

蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山を眺めるスキーヤーたち(ニセコ、北海道)=PIXTA

 世界最高品質のパウダースノーが降り注ぐニセコエリア。ニセコ東急グラン・ヒラフなどのスキー場は、正面に標高1893㍍、山頂部に真っ白な雪をかぶった羊蹄山を望むロケーションで、世界のスキーヤーや富裕層を魅了している。

 昨年はホテルとレジデンスが一体となったパークハイアットニセコHANAZONO内にルイ・ヴィトンのポップアップストアが登場。スキー場にはヴィトン柄のゴンドラリフトも登場し話題を呼んだ。

「ニセコアンヌプリ山」のふもとにあるパークハイアットニセコHANAZONO

 現地を頻繁に訪れる不動産会社役員によると「いまや街を歩けばほぼ外国人。まるで海外にいる気分です。スキー場のふもとにある『ひらふ坂』には1戸10億円を超えるコンドミニアムや別荘が並んでいますし、スーパーでは1折3万円のウニや10万円を超えるシャンパンが普通に売られていたりします」とニセコの現状を話す。

 昨年はレストランも不足していたニセコエリア。現地ではカツカレーが3200円、天ぷらそばは3500円、みそラーメンは2500円と、ラーメン1杯5000円超の米ニューヨークの物価をほうふつとさせるような価格に。清掃員時給も2000円を超え、ニセコはバブル状態となった。

 今年は無料循環バスを走らせて飲食ニーズを分散。また、札幌─ニセコ間に無料ワーカーバスを走らせて都心から働き手を調達するなどの現地観光協会の取り組みもあり、観光地並みの価格に安定してきたという。

札幌市内で進む大規模再開発

 「世界の超富裕層が集まるニセコの余波を受け、札幌も大きく変わってきた」(先の不動産会社役員)

 その言葉通り、札幌市内は今、外資系ホテルの進出が相次いでいる。大阪・関西万博が開幕する今年だけでも「札幌ホテルbyグランベル」や「インターコンチネンタル札幌」「ザ・ゲートホテル札幌byヒューリック」の最高級の3ホテルが開業を予定している。

 もともとニセコや富良野など人気のリゾート地と違い、札幌はどちらかというと観光拠点やビジネス利用が主流だった。このため市内のホテルは中価格帯が優勢で、〝外資系高級ホテル不毛の地〟とも言われていた。

 それが今、市内中心部の至るところで大規模な再開発が進行。富裕層向けの最上級ホテルが続々と建設されつつある。

 背景にあるのは、2030年を目標年とした冬季五輪招致と北海道新幹線の札幌延伸だ。この2つのビッグイベントを見据えて大規模な再開発が進められてきた。

 ところが、冬季五輪は一時は最有力とまで言われた札幌開催だったが、東京五輪の汚職・談合事件の影響で市民の支持が得られずに断念。30年は仏アルプス地域が開催地となってしまう。

 さらに、現在は新函館北斗まで来ている北海道新幹線の札幌延伸も、巨大な岩塊の出現などでトンネル工事が難航。当初の30年度末の開業が見通せなくなり、北海道新聞の報道によると、国土交通省が38年度を軸にその前後で調整していることが明らかにされた。

新幹線開業で〝ニセコ〟が30分圏内

 こうした動きに伴い、一部で施設規模の縮小や、工期の見直しの動きが出てきているものの、再開発自体がなくなったわけではない。 現在の街は1972年の札幌五輪に合わせて建設されたビルが多く、すでに半世紀が経過。再開発の適切な時期に来ているからだ。

 北海道新幹線の札幌延伸も延期になったとはいえ、開通すれば現在2時間以上かかる札幌─倶知安(ニセコ)の所要時間が約30分に短縮される。つまり、国内外の富裕層にとって札幌は魅力的な滞在地に変ぼうする。

東京、京都、ニセコに次ぐパークハイアット

 その兆しは、これまで札幌になかった外資系五ツ星ホテルの進出からも見て取れる。

 「ニセコを訪れる海外客から、札幌にも行きたいという要望が強くなった。北海道の認知度も世界的に高まっている」と札幌への進出理由を明かすのは米ホテル大手ハイアットホテルアンドリゾーツ。

 同社は〝雪まつり〟でにぎわう大通沿いに建設される超高層ビル(高さ185㍍)の上層階で、最上級ブランド「パークハイアット」を国内では東京、京都、ニセコに次ぐ4軒目として29年に開業する。

国内4軒目として29年に開業する「パークハイアット札幌」の建物イメージ

 札幌駅南口ではJR北海道などが高さ約245㍍の複合ビルを計画。建築資材の高騰で規模縮小も検討しているとはいえ、同ビルには米マリオット・インターナショナルの最高級ブランドホテルが入居。31年の開業を目指している。

超高層マンション 大阪の富裕層も購入

 再開発の波は商業ビルだけに留まらない。市内では富裕層向けの住宅も活況を呈している。

 その象徴といえるのが、北海道大学が立地する札幌駅北側に建設された超高層マンションだ。昨年3月から入居が始まった道内最高層となる地上175㍍の「ONE札幌ステーションタワー」。札幌市民の多くが「こんな物件、二度と出ないだろう」と販売中から評判になった物件だ。購入者は道外からが4割。東京や大阪の富裕層もリゾート拠点としての購入が相次いだ。

 世界から注目を集めるニセコ。その余波を受け、新たな都市へと変ぼうする札幌にも注目だ。

北海道外からも購入が相次いだ道内最高層175㍍の超高層マンション「ONE札幌ステーションタワー」(右)