2025年度予算案を審議する国会衆院予算委員会でいきなりガソリン税に上乗せされている暫定税率についての質問が出た。年末年始と2度にわたって補助金が削減され小売価格が急騰。昨年末に自公側と国民民主の3党協議で「暫定税率は廃止する」と合意しているが石破首相は「具体的な実施方法は関係者側で協議する」と従来通りの答弁で煮え切らない。国民生活に密接な影響力を及ぼすガソリン価格と税の攻防を検証する。

トランプ的〝エゴ〟か 温暖化対策〝エコ〟か「暫定税率」廃止の代わりは「炭素税」?
今年に入ってガソリン価格が全国平均1㍑180円台と15年ぶりの高値となっている。高速道路などでは200円の表示も現れた。
長引く円安、ウクライナやガザなどの紛争で世界的にエネルギーの奪い合いが起きていることが背景だが、ガソリン価格の約4割を占める税金も無視できない。
ガソリン代と言うと「マイカー族のぜいたく品」と思われがちだが、太平洋戦争の引き金は米国による対日石油禁輸で、当時は「ガソリンは血の一滴」と言われるほどの必需品。現代も個人宅配が増え物流の経費が増大、地方では電車バスなど公共交通網が減り、マイカーは必需品だ。
安いガソリンスタンドを探そうにも数自体が激減。セルフ給油ばかりで経営者は「ガソリン販売ではほとんど利益が出ない」と嘆く。背景には政官主導の石油元売り会社の統合政策で「ENEOS」が5割以上を占め、残りを「出光」(約3割)「コスモ」(約2割)と今や3社の寡占状態。ドコモとau、ソフトバンクの3社寡占で携帯電話料金が高止まりし、菅政権時にメスが入ったように、価格競争が成り立たない状況にある。
小売価格の4割が税金
図を見てほしい。ガソリン1㍑に対して、環境対策費を含む石油石炭税が2・8円。揮発油税など28・7円、上乗せの暫定税率25・1円でガソリンにかかる税金は合計で53・8円。これに消費税10%が二重課税されている。仮に1㍑180円の小売価格だと元値は110円、残りは税金だ。

自公と国民民主が同意したのはガソリンにかかる税金のうち、暫定税率25・1円の廃止。実現すれば石油元売りに対する補助金が全廃されても利用者の負担は下がる試算だ。
OECD(経済協力開発機構)の中で日本のガソリン価格は今でも米国に次いで最下位から2番目に安い。EU域内では1㍑300円を超える国もある。環境対策に力を入れる同域内では税負担も日本より高い国が多い。
暫定廃止は補助金と引き替え
そもそもこの暫定税率は50年以上前の1970年に道路整備の財源を確保するために生まれた。暫定とは一時的なことを示すはずだが、2009年に道路以外にも使える一般財源となった後、11年の東日本大震災の復興財源に衣替えして延々と続いてきた。今回の3党合意で「暫定税率の廃止」の流れとなったが、廃止時期は来年4月以降。実現すれば年間1・5兆円の財源が失われる。
こうなると当然、金庫番の財務省が黙っているはずはない。コロナ禍経済対策の一環として22年に始まった元売り各社に対するガソリン補助金の全廃と引き換えになる。最大で1㍑41円まで補助したことがあり、これまで投入した補助金は総額8兆円に達する。今後は価格高騰があっても「既に減税したので市場価格は市場で」と突き放す目論見だ。
トリガー条項も廃止へ
暫定税率を巡って、一時よく聞かれた「トリガー条項」をご存じだろうか? ガソリン価格が1㍑160円を3カ月連続で超えた場合、暫定税率の25・1円を自動的に減税する仕組みだが、東日本大震災の復興対策を理由に有名無実化された。暫定税率廃止が実現すればトリガー条項も共に消える運命にある。
財務官僚の敵は元身内
税金の入りと出を支配する財務官僚。議員内閣制の日本では、政治が行政に深く関わるが、自民党税調の宮沢洋一会長(参院議員、同省1974年入省組)のように財務省OBが国会議員となって省利省益を守ってきた。
財務官僚は有力政治家に対し、財政破綻をあおって税収の範囲内で支出するプライマリーバランスの重要性を説き、味方に取り込むのがうまい。ちなみに石破茂首相は長い間〝総理総裁候補〟と官僚に見られていなかったので、まだそこまで財務官僚に洗脳されてはいない。
財務官僚にとって最も手強いのは、財務省OBでありながら野党側に立ち、減税を主張する国民民主の玉木雄一郎代表のような国会議員。手の内を知られているだけに厄介なのだ。
玉木代表は先の衆院選で「国民の手取りを増やそう」と訴え有権者に支持された。その中身は①年収103万円の壁引き上げ②ガソリン税トリガー条項解除③消費税10%を5%に引き下げの3つ。これが実現すると、失われる税収は財務省の試算で①7・6兆円②1・5兆円③15兆円。つまり、「どこかで妥協しないと政権が持たない」と考える財務省にとって、「暫定税率解除」が最も安上がりと考えているのが見て取れる。
「言い替え、すり替え」何でもアリ
財務省は日本の官僚組織の中で最も頭の良い連中の集まり。「暫定税率廃止」が3党合意しても、時期を明示せず、しかも自動車本体に掛かる諸税と一体化して議論させることに策謀が隠れている。自動車への諸税軽減は国民民主の有力支持母体である労働組合「自動車総連」が強く求めており、論議の中でガソリン税の行方をうやむやにし、得意の先延ばしに持ち込む手口が潜む。
省利省益のためには課税さえ維持されればよいから、仮に「暫定税率」を廃止されても、温暖化対策に使う「環境税」「炭素税」の名目に衣替えさせる選択肢もある。官僚は諸外国の例を持ち出し、もっともらしい理由付けをするのが得意だから「日本のガソリン代は外国に比べて安い。ペットボトル入り500㍉㍑の水と同じ程度の値段」と言い出しかねない。彼らは税金を国民から広く薄く痛みを感じさせないで徴収できれば何でもOKなのだ。
政治家に花を持たせ、裏で実を取る官僚支配ニッポン。有権者は常に監視の眼を怠ってはならない。