【短歌に込める経営者の想い⑧】株式会社PRリンク 神崎英徳社長

(歌人・高田ほのか)

 PRリンクは、世界一幸せな企業になるかもしれない。そう思うのは、神崎社長が自社について語るときの、うれしそうな表情だ。しかし、創業時はこんな風に笑える未来を想像できなかったという。 

 神崎社長が起業したきっかけには、長女の死が色濃く影響している。「うちは長女を病で亡くしているんです。2歳10カ月でした。僕に似て天然パーマで目がくりくりと大きくて。何の病気もなくずっと元気だったんですが、ある日体調が急変して。そのとき妻のお腹には次女がいました。長女が亡くなり、わずか12日後に産まれたんです」。目の前に赤ちゃんがいて、にこにこ笑っていても突然亡くなってしまうことがある……。受け入れ難い経験をした神崎社長は、亡くなった長女と、目の前にいる次女のために何ができるかをひたすら自問自答する日々を過ごす。 

 「そういう経験をすると、『実は自分も子どもを亡くしまして……』と言葉を掛けられることが増えたんです」。神崎社長は、世の中にはつらい経験をした人がたくさんいる。さらに、そういう人たちのために世の中をよくしたいと経営している人たちもたくさんいることを知る。「当時、サラリーマンとして広報の仕事をしていたので、僕が会社を興して、まだ世に知られていない、社会的に価値のある企業を広く知ってもらえればという思いがふつふつと湧いてきました」。かくして、2008年、PRリンクは産声をあげる。 

神崎社長

 神崎社長には忘れられない言葉がある。「長女の、『ぱぱ、すごいね』です。幼い子には、父親は何でもできるみたいに映ったんでしょうね。口癖のように言ってくれていました。仕事でうまくいかないときは、今もその言葉を思い浮かべるんです」 

 PRリンクのロゴには、メガホンの下に3つの足がついている。そこには、『二人三脚』と、『メガホンのように気持ちの込もった声を多くの人に届ける』という姿勢が込められている。「この仕事をしていて恵まれているなと思うのは、例えば広告だと、実際とは異なるイメージをお金を出してつくるみたいなこともあると思うんですが、僕らは広報なので、世の中のためになるからこそ、メディアが取材してくれる。『社会にこういう課題があるから、こんなサービスがつくれないか』と、世の中をよくしたいと考えている人たちの思いを実現するために一緒に考え、そのサービスが周りに認められていくというのは、すごくやりがいを感じます」。 

 神崎社長のすごいところは、「子どもたちのために、よりよい未来をつくりたい」。そこしかないと信じ、一直線に突き進んでいるところだ。  

 お金が潤沢とは言い難い、社会的に価値の高い中小企業のみを顧客にしている広報会社というのは他に類を見ない。「もちろん、大変なこともたくさんあります。でもね、」神崎社長は空を仰ぎ、「一所懸命に生きた後、あの世にいって、『ぱぱ、すごかったね』って、もう一回言ってもらえるのを、今から楽しみにしているんです」 

メガホンを空に掲げるもう一度「ぱぱ、すごいね」を抱きしめるまで

神崎社長(左)と高田ほのか

【プロフィル】歌人 高田ほのか 大阪出身、在住 短歌教室ひつじ主宰。関西学院大学文学部卒。未来短歌会所属 テレビ大阪放送審議会委員。「さかい利晶の杜」に与謝野晶子のことを詠んだ短歌パネル展示。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ、短歌の創作を開始。短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、短歌教室、講演、執筆活動を行う。著書に『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)、『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)、『100首の短歌で発見!天神橋筋の店 ええとこここやで』、『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)  。連載「ゆらぐあなたと私のための短歌」(大塚製薬「エクエル(EQUELLE)」)