2022/2/26
なぜワリエワ選手は出場できた?
ドーピング疑惑の北京五輪、一部始終

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昨夏の東京に続く、今冬の北京とコロナ禍真っただ中での五輪が終わった。大会前は中国の人権侵害がクローズアップされ、大会中はロシア・ワリエワ選手(15)のドーピング発覚が話題を独占した。そもそも勝つためには何でもアリ≠ニいう本音が見え隠れする競技スポーツの世界。じっくり内幕を検証してみる。
ワリエワ独りが悪者扱い!?
スポーツで人気取り″総の犠牲に
動揺し「金」逸したワリエワ
ROC(ロシア五輪委)の女子フィギュアスケート、カミラ・ワリエワ選手(15)の出場決定に対し、過去のメダリストら世界中から「ドーピングで引っかかった者の大会出場はおかしい」との激しい抗議が相次ぐ。絶対優勝候補≠フワリエワはショートプラグラムこそ騒音を跳ね返すように1位通過したが、フリーでは7回のジャンプで5回のミスを冒し5位に沈み、結果通算4位でメダルを逸し、早々と翌日には逃げるように帰国した。
12月末ロシア選手権でのドーピング検体がスウェーデンの検査機関で2カ月も判明に要したのはコロナ禍で入国時の検疫遅れから。1月の欧州選手権、2月の今大会でのドーピングでは彼女はクリアだった。ロシア側は「家族が服用している薬を誤って口にした」と説明したが、同時に持久力を上げる2種類の使用合法なサプリ成分も検出され、「偶然に3種の薬が重なるのか?」とさらなる疑問が噴出している。
警察並みの強制ドーピング
筆者自身が日本学生相撲連盟副理事長として外国選手参加の国際規模相撲競技に関わっているのでドーピング検査の現場と実態に何度も接している。試合後の検査員面前検尿だけでなく、突然自宅を訪問され検尿採取されるケースもあり一般的なイメージよりはるかにチェックは厳しい。よく知る有力アマ力士で医師に競技選手である事を告げ処方してもらった服用薬が、その医師のミスで禁止薬材が用いられていて、違反認定され1年間の出場停止になった事があった。あくまで自己責任が大原則だ。

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つまりドーピング違反認定は、本人の意思か否かの問題ではない。意思の有無が影響するのは活動停止期間の長さだけ。期間が決定するまで選手は競技から暫定的に除外される。今回の裁定で「保護されるべき16歳以下への救済」を理由に出場が認められたが、それなら「15歳以下のドーピングはすべて無罪放免」という事になる。
2019年時点でのドーピング違反件数は依然としてロシアがトップ。かつての東ドイツをはじめとする東欧でまん延し、競技力のパフォーマンスを上げるが早死になど体への大きな負担が報告され不正である以前に危険性が高い。
プーチンの必勝体質が原因
騒動の元凶はロシア国内にある。14年自国開催の冬季ソチ大会で組織的ドーピングが発覚。メダル13個がはく奪され、ロシアは今年末まで国としての出場資格を失った。結果、五輪など国際大会は国旗国歌が使用できず選手は個人資格で出場している。ソチでの不正を告発したロシアのドーピング責任者は粛清を恐れ国外逃亡。ドーピング機関研究所職員2人が不審死している。世界反ドーピング機関の各国下部組織は競技団体や政治からの独立が大原則だが、ロシアの検査機関は実施期日や大会名が選手や関係者に筒抜け。独立した組織として機能できていない。
背景には00年に就任したプーチン大統領のスポーツを国威発揚の道具として最重要視する姿勢がある。個人参加のみのはずのペナルティー中でもお構いなく「選手は国の代表」と壮行会で強調。メダリストになると選手本人だけでなく指導者や関係者も巨額の報奨金を得ることが明らかになっている。
あらゆる面でソ連時代への回帰を目指すプーチンは、「冬季五輪でアイスホッケーとフィギュアは特別」と日頃から語っており、未だに貧富差が激しいロシアで上級国民への近道が金メダルなのだ。
そんな背景から登場したのが、ワリエワを指導するアスリート養成学校「サンボ70」のエテリ・トゥトベリゼコーチ(47)。平昌五輪のザギトワやメドベージェワらを育てた功績でロシア最高の栄誉「プーチン賞」を受けており鉄の女∞氷の女王≠ニ呼ばれ、日本流に言えばスパルタ訓練によるパワハラの権化。一緒に選手をサポートしているシュベツキー医師は07年からドーピング違反で4年間の資格停止を受けた過去があり、2人ともワリエワ選手の疑惑関与が疑われている。ロシアは今年末に迫った国としての処分解除を優先、今回の関係者を表舞台から降ろすことで疑惑解明をうやむやにする可能性が高い。
そんな国でワリエワが今後とも正直に話せるはずはない。家族もいるし、これからの生活もある。本来、大会に責任を持つべきIOCは最後まで当事者能力を発揮しないままだった。
興行欲丸出しIOCの堕落
IOCバッハ会長は会見でトゥトベリゼコーチに関し「ワリエワを励ますでもなく、助けるでもなく、とても冷たい雰囲気を感じた」と批判。「ドーピングは選手だけの関与はまれで、ほとんど回りが関わっている。15歳の子が独りでこんなことはしない」とも発言した。これは深読みすれば「トゥトベリゼコーチらをさっさと処分しろ!」というシグナルで、同時に五輪出場資格を17歳以上に改定する検討に入り、実質的な幕引きを図っている。

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IOCが大会開催と参加国増大を最も重視していることは、昨年の東京大会ではっきりした。IOC憲章に明記されている「国家間の競争ではない」との基本理念はどこへやら。金持ち大国による盛大な資金を掛けた大会の誘致合戦と開催。中国やロシアなど専制国は元首の人気取り政策として資金を惜しまず、反対勢力は容赦なく抑え込む。
IOCはショーアップした団体戦を増やして国別対抗意識を駆り立て、テレビやネットでの放映権料を獲得できる。案外知られていないが五輪ではメダルや賞状以外に大会からのごほうびはない。IOCの丸儲けだ。
ではどうすればいいのか?
この際ROC(ロシア五輪委)の様な形で全ての国が個人資格参加に切り替える。個人競技を無理に混合などでの団体戦に仕立てることを止め、表彰も個人資格で。報道する側もメダル偏重、個数競争を止め4位以下の入賞選手にも敬意を。
ただしそうした内容変更で果たして、日本でスポーツ競技力向上へ国や企業が人と金をふんだんに投入してくれるのか?
五輪の光と陰≠再び強く感じた2週間余だった。
■ワリエワのドーピング問題の経過
【21年12月25日】
ロシア選手権女子シングルでワリエワが優勝。ロシア反ドーピング機関(RUSADA)が尿検査で検体を採取
【22年2月7日】
北京冬季五輪フィギュアスケート団体でROCが優勝。ワリエワは女子シングルで五輪の女子競技史上初めて4回転ジャンプに成功、金メダル獲得に貢献
【8日】
ロシア選手権の検査結果をWADAの認定研究所(ストックホルム)が禁止薬物のトリメタジジンに陽性反応を示したため、ワリエワを暫定資格停止処分に。メダル授与式は急きょ中止に。
【9日】
ワリエワ側がRUSADAの規律委員会に異議申し立て。暫定資格停止処分が解除
【11日】
国際検査機関(ITA)がワリエワの大会前のドーピング違反を公表。国際オリンピック委員会(IOC)と国際スケート連盟(ISU)が暫定資格停止処分解除への異議をスポーツ仲裁裁判所(CAS)へ申し立て
【13日】
CASがオンライン形式で聴聞会を実施。IOC、WADA、ISU、RUSADA、ワリエワ本人、ROCを事情聴取
【14日】
CASがワリエワの北京五輪個人戦出場を認める
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