週刊大阪日日新聞

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2021/6/26

そうやったんや! 畑山博史のわかるニュース

五輪開催 異常なまでの執着 菅政権の狙いは何か?

欠如するリーダーシップ 責任論回避に仕掛け

 新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言が6月20日で解除され、五輪開催都市・東京は、来月11日までのまん延防止措置≠ノ規制が緩められた。しかし、本来まん延≠ヘ緊急事態≠招かないために先手を打つ措置であり、準緊急事態≠フような使い方はおかしい。堰(せき)を切ったように五輪は「開催是否論」どころか有観客へとシフトした。是が非でも五輪を開催しようとする菅政権の狙いは何なのか?

「パンとサーカス」のもくろみ

 五輪開催に異常なまでに執着している菅義偉首相。背景はズバリ、政権生き残りをかけた秋の総選挙での勝利だ。五輪、ワクチン接種、総選挙のホップ、ステップ、ジャンプしか道はない。一つでもつまずけば、即退陣だ。

 まずは、先ほどのG7(先進国)首脳会議で五輪開催を宣言して地ならし。首相が何を聞かれても「国民の安心安全に配慮」としか答えないのは、五輪中の予期せぬトラブルは誰にも分からないから。後々証拠となる発言にされないように逃げている。

 政府の次の仕事は五輪有観客化だった。その仕掛けとして、まずはプロ野球やJリーグなどの大規模イベント入場者数の制限を変更。現行の「定員の5割または5千人の小さい方」を、まん延防止♂除後は「定員5割または1万人の小さい方」にちゃっかり倍増した。

 7月23日開幕の五輪への有観客論議とは本来リンクしていないはずが、巧妙に五輪5者(国・都・組織委・IOC=国際五輪委・IPC=パラリンピック委)協議で、この1万人という数字が独り歩きするよう仕組まれた。五輪開催は不動となり、有観客化で仮に大会中に感染爆発が起きても、無観客へ一段落として大会を続ける保険的役割も果たす高等戦術だ。

 なぜそこまで五輪に固執するのか? ローマ時代のことわざで民衆統治に必要なものとして『パンとサーカス』がある。パンは経済、サーカスはわき立つイベントを指す。支持率が低迷する菅政権は、「いざ五輪が始まったら日本による空前の金メダルラッシュで、国民は熱狂する」と読んでいる。

 例えば3大会ぶりに復活した野球。強敵キューバをはじめ台湾や豪州、中国も来ない。米国はメジャーリーガーが不参加。となると、ライバルは日本戦に異常な執念を見せる韓国ぐらい。野球以外でもコロナで参加を見合わせる国や選手が出ており、開催地・日本は戦う前から圧倒的有利だ。

商業主義強まるIOC

 五輪五者協議では「われわれはイベントの専門家、医療の連中はイベントの事を分かっていない」とハナから議論がすれ違っている。彼らの計算では仮に五輪中に東京が感染者増加に転じても8月8日が閉会式で、次のパラリンピックまで2週間のインターバルがあり時間的には十分乗り切れると見る。

 観客を入れての開催は「チケット総額900億円の収入を確保したい」という目先の金だけが目的ではない。まず抽選発売済みの約42%のチケット払い戻しを避けたい思惑が強い。国内購入者の不満と混乱の回避だ。さらに多額を出費した大口スポンサーへの配慮。仮に無観客でスポンサー企業関係者だけスタンドで観戦したら悪目立ちしてしまう。

 近代五輪が始まって125年経つが、これまで4年ごと開催は絶対不動。戦争などで中止はあったが延期は今回が史上初。米テレビネットNBCは2014年冬季ソチから32年夏季までの10大会を、1兆3千億円で一括契約しており、中止になるとIOCは大損する。NBCのシェルCEOは「開会式が始まれば人々は問題を忘れ17日間を楽しむ。東京大会はわが社に最高の利益を生む可能性がある」と意に介していない。

 五輪はすでにその膨大な経費負担から、開催地として手を挙げる国や地域が先進国で減少中だ。テレビの支配力が増し、地味な伝統種目は隅に追いやられ、都市型で若者に人気があり、かつネット観戦も見込める新興種目が台頭。露骨なマネー主義が広がっている。

 感染拡大を心配する国内世論に対し、IOCは外国選手の入国に@ワクチン接種済みAPCR検査による陰性証明B空港検疫経てからの選手村入村を義務付け。行動規範ブックによると「重大違反あれば国外退去」を唱えているが、先週末に到着したウガンダ選手団からさっそく陽性者が出て、日本側の合宿受け入れ地(この場合は泉佐野市)は気が気でない。

 IOCは大会が始まってからの対応を「競技が予選・準決勝・決勝と進む中でコロナ陽性欠場者が出たら、敗者から繰り上げて補充」と記載、競技遂行へコロナで水を差させない構えだ。

桁違いの人流増加

 医療関係者も手をこまねいていた訳ではない。国立感染症研究所は「五輪中に東京は1日新規感染者1千人超となり、宣言再発の危険性」と指摘。厚労省アドバイザリーボードも「五輪開催中に感染者は増加し、パラリンピック前に下がり出す」と同様の分析を示している。

 政府コロナ分科会の尾身茂会長は@プロ野球、Jリーグなどの大規模イベントより観客数基準を厳しくA県境をまたいだ移動観戦を禁止し、地元の人だけでB感染拡大兆候あれば直ちに無観客化、と提言。あまり強く要求しないのは、野党に政治利用されないため。「どうしても開催するなら…」と譲歩した結果だ。

 では観戦者の実際の往来はどうなるのか? 東京を例に取るとプロ野球、Jリーグが1日に試合が集中しても全4試合4万人程度だが、五輪は10倍の40万人が都内を動くと予想される。まして開催地は北海道や東北、静岡を含む首都圏全域の9都道県42会場に広がっている。仮に観客に「マスク着用・飲食禁止・直行直帰・声援禁止」を徹底したとしても、リスクは計り知れない。今春のテスト大会成功をプラス材料として挙げる人もいるが、全て無観客開催だったことから、本番と単純比較できない。

 各地のパブリックビューイングは軒並み中止となり、五輪中の都内はテレワークの徹底を呼びかけている。国民には自宅でのテレビ観戦を推奨しながら、チケット購入者の移動観戦を認めるのはダブルスタンダードといえる。

東京都民の油断

 東京は一時の大阪ほど感染者急増、医療ひっ迫に陥らなかったので緊張感がやや薄い。吉村洋文大阪府知事は「お祭りムードをいかに抑えるか?」と問題提起しているが、実際には難しそうだ。

 小池百合子都知事は、これまでも所属政党を変え、親分を乗り換えて自身『初の女性総理』実現へブレずに突き進んできた。菅首相が思わずボヤいたように開催都市首長の責任としての五輪リーダーシップに極めて欠ける。五輪前の7月4日。都内では都議選の投開票日を迎えるが、自ら作った『都民ファーストの会』とも今回はあえて距離を置いている。どちらも「負けた時の責任論」回避へ独特の嗅覚が働いたのだろう。

 大会終了後、組織委(橋本聖子会長)は解散。政府と都は「実施主体はIOC」と言い逃れて、誰も責任を取らない。一番バカを見るのは、プラチナチケットを高いお金を払って入手し、大喜びした人々だとは思いたくない。

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