2020/12/12
RCEP合意は日本に何をもたらすのか
中韓と初の自由貿易
先日、日本と中国、韓国など15カ国が合意した自由貿易協定「RCEP(アールセップ)。多国間自由貿易協定を巡っては先のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、「農業が壊滅する」「外資に国内市場を明け渡す」とあれだけもめたのに、このRCEPは新型コロナウイルス感染拡大のニュースにかき消されて、ほとんど報道されておらず、ご存じの読者は少ないのではないか。日本にとって中韓と初の自由貿易協定締結でもあり、実は大きな意味を持つ。自由貿易主義者の菅官房長官が総理大臣になったからこそ参加が実現した、この東アジア版TPP「RCEP」が日本に何をもたらすのか解説しよう。

東アジア版TPP≠ヘ日本にプラスだ!
日本のGDP3兆円増に期待
自由貿易協定は、参加国の間で関税などを撤廃し、貿易や投資を拡大していくというもの。
もともとRCEPはASEAN発祥で、そこに中国が乗ってきた。日本はASEANへの主導権争いで中国に負けたくないから豪州とニュージーランド、インドを誘って参加。土壇場で中国と仲の悪いインドが抜けたが、残った15カ国だけでもGDP(国民総生産)と人口は世界の30%を占める規模。太平洋をグルッと囲む国や地域での自由貿易協定TPPに比べると格下のように見えるが、実際は人口比4倍、GDP3倍で、もっと話題になってもいい出来事だ。
カギを握った日本
それぞれの国の立場を見ていこう。
まずは日本。最も恩恵を受けるのは自動車産業。得意の電気自動車(EV)向けリチウム電池やエアバッグの輸出拡大は確実。製造業はすでに中韓やASEAN各国と部品供給網(サプライチェーン)を築いている企業が多いから、輸出量が増え大きなメリット。日本の貿易相手国の1位は中国(21・3%)、3位は韓国(5・3%)だから、日本のGDPを3兆円程度押し上げる効果がある。ただし重大5品目(米、麦、牛豚肉、乳製品、砂糖)は除外なので、自由化率は当面半分程度。それでも輸入野菜は安くなるし、人の動きも自由化するから、外国からの日本就労者は増えそうだ。さらに中国の通販サイト「アリババ」が日本に進出するだろうし、逆に中国で人気のある日本酒などは販路が一気に広がる。
隠れたメリットは、中国での投資環境保護と韓国への輸出拡大だ。中国は知的財産保護(進出した海外企業に対する行き過ぎた技術移転要求や海賊版ソフト取り締まりなど)が不十分だったが、一定枠をはめることができる。韓国とも慰安婦と徴用工の問題で貿易はこう着していたが、雪解けの機会となる。
もともと日本は不利な2国間協定(FTA)を結ばずに、米国とTPP、中国とはRCEPで両国をけん制しながら等距離経済を維持していく姿勢だった。途中、トランプ大統領の就任でTPPから米国が離脱する事態となったが、日本は粘り強く残った10カ国をまとめ世界貿易14%をカバーするスケールで発効までこぎ着けた。トランプ大統領からの日米二国間協定の要求は、のらりくらりとTPPの合意範囲内でかわしている。
表を見ると、RCEPとTPPが重複する相手国もかなりあるが、その場合は輸出入の際に最適選択が可能。既にEU(欧州連合27カ国)とは経済連携協定があり、こちらで世界のGDP30%、貿易額40%をカバーしているから断然有利。
今後は、中国のTPP加盟や米国のTPP再加盟の動きに対し、調整役を務めれば存在感を増す。
ジレンマ抱えるバイデン氏
お次は米国。TPPは2008年のリーマンショックから立ち直るために米国が積極的に推進してきた。当時のオバマ大統領はこれで世界のGDP40%近くをカバーし、中国をけん制する計画だった。しかし、トランプ大統領が就任3日目に一方的に離脱。WTOルール違反の法外な関税を中国からの輸入品に掛け、世界経済を急停止させた。一方で、米国に有利な二国間協定を全方位で押しつけてきた。
次期大統領の行方は未だ不透明だが、仮にバイデン氏が就任してもオバマ時代に簡単には戻れない。元々民主党は労組がバックで保護主義の考えが強く、党内にもバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレン両上院議員ら社会主義的考えの左派勢力を多く抱える。2年後の中間選挙をにらみ、当面国内産業保護≠フ看板は下ろせない。その間隙を縫って、中国はTPP加盟へASEANを抱き込んで動いている。もし、米国より先に中国がTPPに加われば、回復不能な遅れになる。
トランプ氏の中国製品高関税を当分引き継ぎ、安保上の懸念からファーウェイの締め出しも継続。米議会も中国系企業を標的にした「外国企業説明責任法」を成立させたが、トランプ後遺症の一掃は簡単に進まない。
世界制覇目指す中国
中国の最終目標は21世紀シルクロード≠ニ呼ばれる広域経済圏構想「一帯一路」だ。人民元でほおをたたくようなやり方で既にユーラシア大陸だけでなく、アフリカや南アメリカまで資金を投入し勢力を広げている。
RCEPは中国の世界覇権の第一歩≠ニして各国から注目を集める。トランプ氏の中国包囲網に苦しんだが、コロナ禍で世界経済が崩壊して立場は逆転。いち早く立ち直ったことを喧伝し、追い風を得た。習近平国家主席の「TPP参加に意欲」発言は脅しではなく本気で米国を屈服させ、二度と関税競争を許さない作戦だ。
さらに恐ろしいのはこのほど中国で成立した輸出管理法。日本で取れないレアアース(希少金属)などを「軍事転用の危険」と一方的に認定し、輸出をストップできる。「国家安全維持法」による香港の言論弾圧からも分かるように、中国は三権(立法・行政・司法)の上に共産党がある非民主主義国家。国家間は常に力で対決し、屈服すれば頭をなでるアメとムチ≠フ極端な使い分けは、自由主義国にとって脅威だ。
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